★ジャック・ケッチャム『老人と犬』扶桑社ミステリー

 ジャック・ケッチャム老人と犬扶桑社ミステリーを読了。
 老人が年老いた愛犬と釣りをしているところにショットガンを持った3人組の少年が現れ、金を出せと老人を脅かす。だが、老人がろくに金を持っていないことを知ると、腹いせに犬を射殺してしまう。犬は、老人が愛したいまは亡き妻が、老人にプレゼントしたものだった。過去の悲劇で家族を失った老人にとって、孤独な日々の無聊をなぐさめる唯一の相棒だった。
 老人は法に裁きを求めるが、法律でできることはほとんどなかった。そのため、正義を求めて自分で行動をおこすのだが……。

 『隣の家の少女』は、自分の中のダークサイドを覗き込むことを無理強いされるような、そんな小説だったのだが、本作はまったく違っていた。自分の価値観からダークサイドに立ち向かう老人の姿を描いているのだ。その老人に、ダークサイド、犬を殺した少年とその家族は、執拗に攻撃を繰り返すのだが、老人は立ち止まることなく、自分の中の正義に向けてじわりじわりと進み続ける。そういうシンプルな小説なのだ。
 そして、ラストのエピソードがめちゃくちゃいい。えっ? ケッチャムってこういう暖かみのあるラストシーンを用意できる作家だったの? これじゃあ、いままでさんざん人が死にまくる小説を書いておきながら、『少年と犬』を書いてしまった馳星周みたいじゃん。
 それにしても、この読みだしたらやめられなくなるリーダビリティの高さはいったい何なのだろう? やばい。2冊読んだところで、ケッチャムにはまりつつあるような気がする。他の作品は、けっこう嫌な読後感が待ち受けていそうだというのに。