【映画】セックスの才能

 U-NEXTでフィリピン映画『セックスの才能(EXPENSIVE CANDY)』を観る。

 堅物の社会科教師トト(カルロ・アキノ/Carlo Aquino)。30歳を過ぎても女性とつきあったことがなく、生徒からは童貞をネタにバカにされる始末。ところがある日、歓楽街に迷い込んだトトは、人気No.1のコールガール、キャンディ(ジュリア・バレット/Julia Barretto)を相手にひとときを過ごすことに。彼女との初体験ですっかりのぼせあがったトトは、なんとか金を工面して翌日もキャンディのもとにむかい、店外デートにこぎつけ、すっかり彼女に惚れ込んでしまう。しかし、貧乏教師のトトに彼女のもとに通い続ける資金力はなかった。しかも、彼女はより金の稼げるゴーゴーバーに移ってしまい、なおさら会いに行くのが難しくなってしまう。ありとあらゆる手段を駆使して金を工面してキャンディに会いに行くトト。キャンディも次第に、セックスだけが目的の他の客とは違うトトの優しさに惹かれていくのだが……。

 ビバフィルム制作の映画で『セックスの才能』などという邦題をつけられたのだから、どうせどうしようもないエロティックムービーなのだろうと思うところだろうけれど、監督がジェイソン・ポール・ラクサマナで、主演がジュリア・バレット&カルロ・アキノでエロティックムービーのわけがない。
 実際、コールガールと堅物の貧乏高校教師の恋愛という題材ながらも、露骨なセックス描写はまったくなし。それどころか、なかなかにめんどくさいテーマの恋愛ドラマだったのだ。
 ヒロインのキャンディは、貧乏な家庭に生まれ、それでも「貧しき者は幸いである」という聖書の言葉が好きだという父親の影響もあって、貧しいことに拒否感を持たずに育っていた。ところが、母親が病気になった時に、父親が単にぐうたらな自分を糊塗するために聖書の言葉を引用していただけだと気づいてしまう。そのため、母親が亡くなったあと、家を出て金を稼ぐためにコールガールになり、自分には「セックスの才能」があるのだと気がつく。
 ここで「自分の才能を利用して金を稼ぐことのなにが悪い」という命題が観ているこちらに投げかけられることとなる。タテマエは「悪くはない」と答えたいところだけれど、本音では「でもなあ……」と思わずにいられない。
 一方のトトは、キャンディに会いたいがために、教師のとしての倫理感をかなぐり捨て、なりふりかまわず金を稼ごうとする。そうでもしないと愛する女性に会うことができないという事情があるにしても、まったく罪悪感なしに教師としてのルールを踏み外していくトトの行為に、どうしても眉をひそめてしまうことになる。本気で愛してしまったのだから仕方ないじゃんと許してやりたいけれど、でも、やっぱり踏み越えてはいけない一線というものもあるのだ。
 というような、実にめんどくさいテーマを抱えたドラマなのだ。しかも、トトが教師をクビになったあと、もっともっとめんどくさい命題がつきつけられることになる。もう少し気楽に楽しめる恋愛映画の方がいいなあ……というのが正直な感想で、観ていていささかしんどかった。

 キャンディを演じているジュリア・バレットは、子役としてキャリアをスタートし、2016年の『Vince & Kath & James』で注目され、翌年の『愛して星に(Love You to the Stars and Back)』でブレイク。青春映画のアイドルとしてジョシュア・ガルシアとのコンビで何本もの映画、テレビシリーズに出演したのち、日本で撮影された『Between Maybes』あたりから徐々に大人の女優へとシフトしてきている。その他の主演作としては、『Block Z』『Un/Happy for You』などがある。ちょっと藤谷文子に似たポッテリした唇がチャームポイントの女優だ。
 トトを演じているカルロ・アキノは、ついこないだ観たばかりの『Seasons:めぐりゆく季節の中で(Seasons)』が印象に強いが、やはり子役として『Magic Temple』『Kokey』といった作品で活躍していたベテラン俳優であり、2023年に5本、2024年に3本の映画に出演と、現在もコンスタントに映画に出続けている。僕が観た中では『ULAN』『Third World Romance』といった作品でも印象に残る演技を見せていた。日本なら満島真之介、中国なら謝苗にちょっと雰囲気が似ている。
 監督は、『ソーシャル・クライマーズ(Sosyal Climbers)』『Love Is Blind』『Between Maybes』『The Third Party』などのジェイソン・ポール・ラクサマナ(Jason Paul Laxamana)。コメディ映画から本格的な恋愛映画まで、実に手堅く撮りあげる職人監督なのであろうと思っている。