【映画】国宝

 歌舞伎の世界を舞台にした話題の邦画『国宝』を観てきた。

 ヤクザの家に生まれながら、歌舞伎の才能を見いだされ、上方歌舞伎の名門の当主、花井半二郎(渡辺謙)に引き取られた喜久雄(吉沢亮)。半二郎の息子として生まれ、幼い頃より歌舞伎を叩き込まれた御曹司の俊介(横浜流星)。生まれも育ちもまったく異なるこの2人が、歌舞伎にのめり込み、ライバルとして切磋琢磨して育っていく。だが、半二郎が演じるはずだった「曽根崎心中」の代役に喜久雄が選ばれたことから2人の運命の歯車が狂い出すのだった……。

 いやあ、凄い。舞台のシーンにとにかく圧倒される。いったい、どれだけ練習したら、あの歌舞伎の所作、発声を再現できるのだろう。歌舞伎に関しては素人のはずの吉沢亮横浜流星が、舞台の上で歌舞伎を演じるシーンがとにかく圧巻なのだ。背景のドラマもさることながら、舞台のシーンがとにかく素晴らしい。とりわけ2度にわたる『曽根崎心中』の舞台場面では、鳥肌がたつほど興奮させられた。まさに圧巻ともいうべきシーンだった。吉沢亮横浜流星、凄すぎる。
 主役のふたりだけではなく、その他の役者もとにかく充実している。渡辺謙田中泯の存在感! 寺島しのぶの安定感。そして、ふたりを巡る女性たち、高畑充希、見上愛、森七菜の艶やかさ。2人の少年時代を演じる黒川想矢、越山敬達の繊細さ。
 そして、豪華絢爛たる映像の素晴らしさ。
 まさに、映画の魅力がたっぷりと詰まったあっという間の2時間54分だった。

 ところで、少女マンガに詳しい人ならけっこう多くの人が思っただろうけれど、これって基本路線は嶋木あこによる少女マンガ『ぴんとこな』と同じだったりする。歌舞伎界の名門に生まれ、御曹司ともてはやされながらも、全くやる気がなく実力が名前に伴わない恭之助と、歌舞伎とは無縁の家に生まれながら、鍛錬に鍛錬を重ね、実力だけでのし上がってきた一弥というふたりの若者の物語。ただし、『国宝』の方は、ふたりとも歌舞伎に魅せられ、ふたりとも努力を重ねて実力を伴っているという違いがあり、それだからこそより重厚なドラマになっていると言えるのだけれど。