
平井和正『新幻魔大戦』徳間文庫を読了。
「幻魔大戦」は、角川文庫版の『幻魔大戦』全20巻を読んでうんざりしてしまい、『新幻魔大戦』も『真幻魔大戦』も読む気になれないでいた。角川文庫版『幻魔大戦』は、ただただズルズルと長いだけで、話はぜんぜん展開せず、まったく面白くもなく、ひたすら読むのが苦痛だった。かつて平井和正は「爪で岩に文字を彫る」と言われるほど濃密な文章が魅力であったのに、あるときから「小説は長くてもかまわないのだ」と自ら語るようになり、やたらと長いシリーズを量産するようになったために、自分は平井和正を見限ったのだった。
ところが先日、SNSで平井和正の話題が出たときに「『新幻魔大戦』は面白いんだよ」と複数の知人から勧められ、それならばとさっそく読んでみた次第。
なるほど、これは量産するようになる前の平井和正の魅力が詰まった作品であった。ベースになっているのは、SFマガジンに石ノ森章太郎と組んで連載をしていた「新幻魔大戦」であるが、それをきっちり小説として書き上げたものと言えばいいのだろうか。
「幻魔」の攻撃によって地球人類は滅亡寸前に陥っていた。生き延びた人類はわずかなエスパーのみ。そこへ、江戸時代から時間を超えて時間跳躍能力を持つお蝶という若い女性が現れる。エスパー集団を率いるベアトリス女王は、地獄のような1999年のエドを生き延びた千波とお蝶の精神を接合し、お時という新たな人格として過去へと送り込む。そこで、より強力な超能力を持つ人類を生み出し、幻魔の襲来に備えるために。たとえ、それで救われるのが、自分の存在するのとは別の平行世界の地球であるとしても。
なかなか壮大な設定の物語である。そして、この壮大な物語が1冊で終わるわけもなく、「まだまだこれから!」というところで終わってしまっている。そして、2巻はとうとう書かれずに終わっている。もしかしたら、これがよかったのかもしれない。これが延々と続きが書かれていたら、角川文庫版『幻魔大戦』どうように、うんざりさせられていたのかもしれない。この1冊に、この壮大な物語のエッセンスがギュッと濃縮されているからこそ、平井和正の魅力が詰まった作品に仕上がっていたのではないだろうか。
自分の好きな平井和正の作品のひとつに『悪霊の女王』という作品があるのだけれど、これも1巻だけ出て続きは書かれないままにおわっている。きっと、続きが書かれたならば、どんどん密度が薄まっていたことだろう。
巻末に「あとがき」「別のあとがき」「自筆年譜」が収録されているが、この「自筆年譜」がなかなか面白い。「神がかり」となったことを批判されているとか、『悪霊の女王』の2巻を書こうとすると凶事怪異が多発するとか、そんなことがあれこれ書き込まれている。
なお、SFマガジンに連載された平井和正と石ノ森章太郎がタッグを組んだ「新幻魔大戦」は、復刊ドットコムより上下巻で刊行されているのだけれど、お値段が上下税込みで13,200円。さすがに、気軽に手を出せる金額ではないよなあ。一方、秋田文庫からも出ているようだけれど、文庫サイズで読むのはさすがにきつそうだ。