★岡里幸助『SF黎明期 未踏の時代を歩く』BOOK&MAGAZINE社

岡里幸助『SF黎明期 未踏の時代を歩く』BOOK&MAGAZINE社を読了。

 少年雑誌に掲載されたSF関連の図解特集ページ等の紹介をメインにしながら、SFマガジンの初代編集長である福島正実らがそこにどうかかわっていたかを辿るという労作。とにかく、昭和40~44年あたりの少年マガジン、少年サンデーなどの少年誌に掲載された図版の再録が大量にあって、これを見ているだけでめちゃくちゃ楽しくなってくる。よくまあ、これだけの資料をかき集めたものと、ひたすら驚嘆する。老眼ゆえに再録されている図版の細かい文字が読めないのが悔しいかぎりだ。
 ただ、部分的に掲載されている図版と、そこについている文章とがうまくリンクしていないと感じる箇所があった。図版と離れて日本SFの当時の状況を描こうとしたためと思うのだけれど、読み物としても面白い内容なので、そこは図版を減らして文字メインにしてもよかったのかもしれない。とはいえ、図版を減らしてほしくないという欲求もあり、非常に悩ましいところではあるのだけれど。
 いずれにしても、ページをめくるたびに楽しくなること間違いなしの自費出版本である。

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★狂徒

 台湾のアクションクライム映画『狂徒』を観る。

 暴力事件でバスケットボール界を追放された元バスケットボールの花形選手だったレイ(林哲熹/リン・ジャーシー)。怪我をさせた相手の治療費を払うために、いまでは自動車窃盗団の下働きのようなことをしている。
 それがある時、雨の日だけに現金輸送車を襲う強盗犯のレインマン(吳慷仁/ウー・カンレン)に遭遇し、脅迫されてその行動に巻き込まれていく。まったくその気はないのに、いつの間にかレインマンのペースに乗せられて、裏社会の組織を敵にまわし、さらにはレインマンの正体と見なされて警察から追われる身となってしまう。四方八方敵だらけという窮地に追い込まれたレイが選んだ道は……。


 まったくなんの情報もなく、レンタルビデオショップの店頭で「なんとなく面白そう」という直感だけで借りてきた作品だったのだけれど、この直感が大当たり。めちゃくちゃ面白かった。
 ウー・カンレン演じるレインマンのキャラがいい。すっとぼけて、ずるくて、余裕たっぷりで。それに対するリン・ジャーシー演じるレイはというと、真面目で、不器用で、とことん不運で、レインマンと真逆のキャラなのだ。そのふたりのバディものと思わせておいて実は……という展開もなかなかおいしい。最後の最後でニヤリとさせてくれる脚本もみごと。
 また、ジャック・カオがいまいちさえない刑事役で出ているというのも、ちょっと新鮮だ。
 監督は本作が長編第1作となる洪子烜(ホン・ズーシュアン)。台湾金馬奨で撮影賞とアクション賞を受賞しているとのこと。

 

★イップ・マン 立志

 『イップ・マン 立志』を観る。原題は「葉問宗師覚醒」。


 ドニー・イェンの『イップ・マン』のヒットを受けて、中国でもその柳の下のドジョウを狙ったパチモン映画が量産されているようで、続々とレンタルビデオショップに「イップ・マン系列」のソフトが並んでいる。だけど、はっきりいって中国産の武術映画は、アクション演出がいまいちな作品が多く、あまり観る気がおきないでいた。
 が、本作はシェー・ミャオ(謝苗)が主演ということもあって、観てみることにした。シェー・ミャオといってもピンとこない人が多いかも知れないが、『新・少林寺伝説』(1994)や『D&D 完全黙秘』(1996)といった作品で絶頂期のジェット・リーの息子役を演じていた、あのチビッコなのである。あの小僧がいまや立派なアクション俳優となって活躍しているのだ。ちょっととぼけたような風貌の彼が、どういうイップ・マンを演じているのか、気になるではないか。
 で、実際に観てみて、あなどっていて悪かったと、素直に謝りたい。中国の武術映画にも、きっちりした作品があったではありませんか。そう、真っ当な武術映画として、見ごたえのある作品に仕上がっていたのである。
 舞台は香港。香港に留学で来ていたイップ・マンは、仏山で一緒だったボーフォンと再会し旧交を温める。が、若い女性たちがイギリス人率いるギャングたちに誘拐される場面に遭遇し、引き留めるボーフォンを振り切ってギャングどもを叩きのめす。だが、そのことによってボーフォンたちは報復にあい、ボーフォンの妹も攫われてしまう。その背後にいたのは、香港の若い女性をヨーロッパに売り飛ばしているイギリス人の犯罪組織であった。イップ・マンは、ボーフォンの妹を救うために、バーティツの使い手を相手の闘いに挑むことになるのだが……。

 若い女性が攫われてヨーロッパに売り飛ばされているという設定は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地大乱』でも扱われていたし、広場に設置された舞台の上で決闘をするという設定は『イップ・マン』など多くの武術映画で観てきているし、西洋人vs中国人のバトルという設定も繰り返し観てきた。そういう武術映画のおいしい要素が数多く取り入れられている。
 そして、格闘シーンでのシェー・ミャオの動きが実にいい。ドニー・イェンの『イップ・マン』で観なれた詠春拳の動きが、きっちり再現されているのである。このアクション演出、細かい動作などの組み立てがとても見事で、本当に見ごたえのある格闘シーンとなっているのだ。
 ちなみに、ここで出てくるイギリス人が使うバーティツという武術だけれど、もしかしてこれってシャーロック・ホームズにでてくるバリツのこと?と思ったら、本作のホームページにこう書いてあった。
「イギリスで生まれた格闘技バーティツは、ボクシングや柔術などを組み合わせて誕生した格闘技で、かのシャーロック・ホームズもその使い手として知られている。詠春拳との異種格闘技戦は、その規模とロケーションも相まって手に汗握る仕上がりとなっている。」
 おおっ、やっぱりバリツのことだ!

 監督は李希傑(リー・シージェ)&張著麟(ジャン・ジェアリン)。このあたりの映画人については疎いのでぜんぜん知らない二人組なのだけれど、この二人が組んでシェー・ミャオ主演で撮った『少林寺 十八の羅漢』という作品があるらしいので、これも観てみなければ。

★ジョー・R・ランズデール『バッド・チリ』角川文庫

 ジョー・R・ランズデール『バッド・チリ』角川文庫を読了。


 『凍てついた七月』がハップ&レナードシリーズ4作目と思い込んでいて、それがなければ本書を読むわけにはいかないと思っていたのだけれど、実は『凍てついた七月』はシリーズ作品ではないと知って遠慮なく手を出すことにした。
 相変わらず下品で、相変わらず面白い。そして、相変わらず痛そうな描写が活き活きとしていて、読んでいて顔をしかめてしまう。
 そして、驚くほどエッチなヒロインが登場してきて、その壮絶な過去に戦慄する。よくまあ、こんなぶっとんだキャラクターを創造するもんだ。あまりにも魅力的なキャラクターなもんだから、ある場面では凍りついてしまったぞ。思わず「そりゃないだろう」と思ったが、そりゃなかったのでけっこうほっとした。
 しかし、シリーズの翻訳が途切れてしまっているということは、売れなかったんだろうなあ。こんな面白いシリーズなのに、実にもったいない。どこか別の出版社でシリーズ1作目から出してくれないかなあ。角川文庫の翻訳、シリーズ3作目が最初に出て、次に2作目が出て、4作目、5作目、7作目が出るという実に変則的な出方をしたので、シリーズ1作目はついに翻訳されていないんだよなあ。6作目も8作目以降も出ていないんだよなあ。
 ランズデールには『Tarzan: The Lost Adventure』なんて作品もあるというので、これまたすごく読んでみたいのだけれど、どこも訳してくれないよなあ、きっと。

★CRUSH KONG CURLY

 フィリピン映画『CRUSH KONG CURLY(2021年)』を観る。

 エラ(AJ・ラヴァル/AJ Raval)は、自分のエロティックな動画を配信するサイトを運営して大人気となっていて、そこからそれなりの収入も得ている。大家でありエラの友人でもあるキップ(チャド・キニス/Chad Kinis)とチェリー(ローレン・マリーニャス/Loren Mariñas)も、エラの活動に理解を示して、撮影を手伝ったりしていた。
 ところが、部屋の壁が崩れたために現れた隣人の建築家ピーター(ウィルバート・ロス/Wilbert Ross)は、エラのしていることがモラルに反していると彼女を否定する。だがエラは、自分は世の男性たちにファンタジーを提供しているのであって、何も悪いことはしていないと主張する。また、エラがお金を必要としているのは、祖母の目の手術費を稼ぐためでもあり、将来の夢である白い家を建てるためでもあった。
 人を理解しようともせずに弾劾することの傲慢さを指摘されたピーターは、しだいに彼女に理解を示すようになると同時に、徐々に彼女に惹かれていくのだが……。

 このところのビバフィルムが世に送り出す映画は、そのほとんどがソフトコアポルノと化していて、やたらと女性のヌードが登場し、セックスシーンが繰り返される。おかげで最近のビバフィルムの映画にはいささか食傷気味なのだけれど、ビバフィルムのみが元気に新作を製作しているという現状ではビバフィルムの映画を観るしかないというのが実に哀しいところ。
 本作もそうしたソフトコアポルノの1本であるのだけれど、主演のAJ・ラヴァルがやたらと可愛くて気になっていたので手を出したという次第。
 実際、AJ・ラヴァルは非常に魅力的な女優だった。とにかく可愛い。非常に陽性のキャラクターで、彼女の笑顔には思わず引き込まれてしまう。とにかく魅力的なのだ。彼女ほどのルックスがあれば、なにも裸にならなくてもよさそうなものだが、それが許されないのがいまのフィリピンの映画界なのだろう。
 そうしたAJ・ラヴァルの魅力だけでなりたっているような映画で、明るい艶笑譚としてそれなりに楽しめる映画に仕上がっていたりする。だが、残念ながら途中からシリアスな展開が待っていたり、そのくせ最後にはいささか安易なハッピーエンドが待っていたりして、そのあたりはちょっと残念な映画となってしまっている。
 シリアスな展開とか不必要なセックスシーンとかをカットしたら、ちょっとエッチな青春映画の佳作になる可能性だってあっただろうに。

 主演のAJ・ラヴァルは、ダリル・ヤップ監督の『Paglaki ko, gusto kong maging pornstar』ではポルノ女優にあこがれる女の子の役で出ていて、そのあまりの可愛らしさに注目していたのだけれど、実はナディーン・ルストレ主演のダンス映画『Indak』にも出ていたらしい。若いダンサーのひとりかと思ったら、ヒロインが島で暮らしている時の友人とのこと。機会があればチェックしてみよう。また、ココ・マルティン主演の超人気テレビドラマ『Ang probinsyano』に出たりもしている。2022年になってからはすでに4本の映画に出演しているので、こちらもチェックしなければ。

 監督のGBサンペドロ(GB Sampedro)は、お初にお目にかかる監督だが、テレビシリーズを手がけながらも2021年に2本、2022年に5本の映画を撮っている。スリラー、ドラマ、コメディと幅広いジャンルの映画を撮っているようだが、最近の作品はいずれもセクシーな女優がポスターとなっていて、ビバフィルムで映画を撮るということはこういうことなんだなと実によくわかる。

★RRR

話題のインド映画『RRR』を観てきた。言わずと知れた『バーフバリ』の監督の最新作だ。

映画があまりにも圧倒的すぎて、すっかりエネルギーを搾り取られてしまう。もうね、映画の熱量が半端なさすぎて、映画が終わったときにはぐったりと疲れてしまった。とにかく凄い。徹頭徹尾興奮。
スピーディかつスケールの大きなアクションの連続も、単調にならないようにあれこれ工夫がこらしてあって、まったく飽きない。肉弾戦あり、銃撃戦あり、壮絶な爆破シーンもあり。しかし、肩車バトルには驚かされたぞ。そこまでやるか! そして、バイクを相手のあの場面、マンガの『1・2の三四郎』で観たことはあったけれど、まさか実写で観られる日が来ようとは!

あれこれ突っ込みどころ満載なんだけど、細かいことなんてどうでもよくなってしまう。
「その辺にはえている草で毒蛇の毒を中和できるのかよ!」とか「その辺に生えている草で、砕かれた膝が治るのかよ!」とか言いたくなるけれど、いいんです、きっとインドの薬草は凄いんです。てっきり死んだと思っていたあの人が生きていてもいいんです。インド人の生命力は強いんです。いつのまにか背中に背負っている矢の本数が増えていたっていいんです。こっちからスポットライトを当てているのに、主人公が逆光の中に立っていたっていいんです。総督の妻がサディストで、どこで手に入れたのか分からないようなトゲトゲの鞭を持っていたっていいんです。言葉が通じないのに、いつの間にか祖国を捨てて主人公にくっつく女性がいたっていいんです。

しかしまあ、映画のタイトルが出るまでが長かった。タイトルが出たところで「えっ、そういえばまだ映画のタイトルが出てなかったっけ! 気がついていなかったよ」となってしまったけれど、なんとタイトルが出るまで39分なのだとか。確か、シャー・ルク・カーン主演の『カランとアルジュン』もタイトルが出るまでが長くてびっくりした記憶があるのだけれど、こっちとどっちの方が長いのだろう。

垂れ目がチャームポイントのヒロインはアーリヤー・バットという女優さんとのこと。けっこう可愛いじゃん。『スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え! No.1!!』『ガリーボーイ』に出ていたとのことで、両方とも観てるんだけど、覚えていなかった。不覚!
ダンスシーンがないのが残念とか思っていたら、まさかのエンドクレジットで楽しいダンスを披露してくれていた。

★消えゆく燈火

 東京国際映画祭にて香港映画『消えゆく燈火』を観る。

 香港という街をあれほどまでに魅力的にしていたネオンが法律によって規制され、いまではあらかた消え失せてしまっているのだという。長いこと香港に行っていないので、ぜんぜん知らなかった。
 そのネオン管を作る職人のサイモン・ヤムが亡くなり、妻のシルビア・チャンと弟子のヘニック・チョウは、なんとか工房を維持して、サイモン・ヤムが最後に手がけようとしていたネオン看板を仕上げようと駆けずり回る。
 一方、母親がいつまでも亡き夫にこだわりつづけていることにいらだちを隠せない娘のセシリア・チョイは、オーストラリアへの移住を決めているのだけれど……。
 失われゆくものに対する哀惜の念が、あまりにも切ない。そして、いまや失われようとしているのは、ネオンサインだけではなく、香港そのものが失われようとしているのだという現実が、二重に胸に迫ってくる。
 そして、シルビア・チャンが実にいい。もういい歳なんだけど、さりげなく可愛いんですよ。ほんとにもう、素晴らしい女優だと、それしか言葉が出てこない。

 上映終了後にゲストを迎えてのQ&Aがあったのだけれど、広東語を日本語に訳して、それを英語に訳してというステップにどうしても時間をとられてしまうのがとても残念。
 そして、会場が六本木から有楽町に移ったことで、ゲストと接するスペースがなくなってしまったのも残念。東京国際映画祭では、毎年のようにゲストのサインをもらっていたのだけれど、これからはそういう機会もなくなってしまいそうだ。