【映画】プロジェクト・ヘイル・メアリー

 U-NEXTで『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を観る。
 太陽系に進入してきたアストロファージという太陽のエネルギーを吸収する微生物によって、地球は壊滅的な寒冷化に襲われる運命にあった。ところが、くじら座タウ星だけは、そのアストロファージに襲われながらも太陽の光が弱まっていなかった。そこに地球を救う鍵が隠されていると信じた人類は、タウ星に向けてアストロファージをエネルギー源とするヘイル・メアリー号を送り出す。
 タウ星の近くまで辿り着いたとき、ヘイル・メアリー号は別の宇宙船に遭遇する。それは、まったく別の星系から、同じ目的でやってきていた宇宙船だった。ヘイル・メアリー号の唯一の生き残りであるグレースは、その宇宙船に乗っていた岩のような外見の宇宙人と協力して、お互いの星を救うための調査に乗り出すのだが……。
 アンディ・ウイアーの原作がとにかく面白かったのだけれど、その原作のよさを見事に映像化している。どんな深刻な場面でもユーモアを忘れない主人公がアンディ・ウイアーの作品の魅力のひとつでもあるのだけれど、映画の方もそのユーモアの味つけが実にいい感じに表現されている。また、映画ならではの迫力ある映像もあって、156分の長尺をまったく飽きさせずに楽しませてくれた。
 まあ、ちょっとは長すぎると思わないでもないけどね。

【読書】豊田有恒『日本SFアニメ創世記』TBSブリタニカ

 豊田有恒『日本SFアニメ創世記』TBSブリタニカを読了。
 サブタイトルが「虫プロ、そしてTBS漫画ルーム」。先日読んだ真崎守の『私の手塚治虫1』が面白かったので、もう少し虫プロに関する本が読んでみたくなって図書館で借りてきたもの。
 日本のテレビアニメ創世記を現場にいた人間がレポートしたものだが、客観的なレポートというよりも回想録という色合いが強い。そのため、自分がいかにしてSFにのめり込み、「エイトマン」のシナリオライターになったかという、虫プロ入社前のエピソードにもけっこうな紙数が費やされている。でも、それはそれで面白いので、ぜんぜん問題なし。
 そして、「エイトマン」のシナリオが認められて手塚治虫から「うちへ来て、アトムのシナリオを書いてくれませんか?」と誘われて虫プロに入社することになる。真崎守は制作進行という立場ゆえに手塚治虫にいろいろと苦しめられ、手塚治虫に対しては愛憎半ばするものがあったようだけれど、豊田有恒はシナリオライターという立場ゆえにそれほどふりまわされることもなく、けっこう手塚治虫に可愛がられていたようだ。
「手塚治虫という人は、アニメを商売だとは思っていない。自分の夢の実現と考えている。ここに齟齬があった。」という一文が出てくるが、それが現場スタッフを苦しめることになった大きな理由であったのだろう。「手塚治虫には社長としての判断が欠けていた。」とも評している。やはり、天才クリエイターであって、経営者ではなかったということなのだろう。
 いずれにしても、豊田有恒は虫プロにおいて重宝されていたし、本人も「鉄腕アトム」のシナリオを書くことを楽しんでいたようだけれど、そこに有名な「宇宙少年ソラン事件」が発生する。虫プロが次回作として企画していた「ナンバー7」にリスのキャラクターを予定していたのだけれど、その情報がTBSに漏れて「宇宙少年ソラン」に使われてしまったのである。「エイトマン」以来、TBSとの付き合いがあった豊田有恒が疑われ、そのことを手塚治虫に詰問されて誤解を解こうともせずに「辞めてやる!」とわめいて虫プロを辞めてしまうのである。いやはや。
 このあと、豊田有恒は「スーパージェッター」のシナリオにかかわり、さらには因縁の「宇宙少年ソラン」の脚本も書く。しかも、その「宇宙少年ソラン」で「鉄腕アトム」で使ったアイデアを流用して手塚治虫から怒りの電話が入るのである。なにも「宇宙少年ソラン」でそれをやらなくてもいいだろうに。
 その後、豊田有恒は「冒険ガボテン島」のシナリオを書いて、シナリオライターとしての仕事を終える。どの作品も、幼い頃の自分が楽しんだ作品だけに、その裏側の話は興味深く、実に面白く読めた。やはり、現場にいた人間の話は面白い。

【映画】アビゲイル

 Netflixでアメリカのホラー映画『アビゲイル』を観る。
 お互いの正体を知らずにかき集められた犯罪者たち。身代金目当てで富豪の娘、アビゲイルを誘拐するのだが、なぜか少女を連れ込んだ郊外の豪邸に閉じ込められてしまう。そして、その館の中で血まみれの惨劇が始まる。実は少女の正体は……。
 いやはや、とんでもない映画だった。ネットの紹介記事ではたいてい少女の正体をバラしてしまっているし、予告篇でもすっかりネタをばらしているので、この映画を観ようという人のほとんどはその正体を知っているのだろうけれど、それでも敢えてここでは書かない。ポスターにもはっきり書いてあったけれど、ここに掲載したポスターはしっかり加工してその正体は隠した。知らない人は、知らないままこの映画を観て驚愕するべきなのだ。知っていたとしても、こんなとんでもない展開になるとは思わず、やはり驚愕することだろう。
 いやあ、凄かった。実に面白かった。このジャンルで、この展開とは。まだまだ新しいアプローチの仕方があるもんだなあ。ホラー映画が好きだったら必見と言い切ってしまおう。

【映画】香港、華麗なるオフィス・ライフ

 香港・中国合作映画『香港、華麗なるオフィス・ライフ』を観る。
 シルビア・チャンが制作・脚本・主演、ジョニー・トゥが監督、そして共演がチョウ・ユンファで、音楽が羅大佑(ルオ・ダーヨウ)とくれば、期待しない方がどうかしている。だけど、これがみごとに自分にはまったくピンと来ない映画で、118分がやたらと長く感じてしまった。
 「株式公開を控えた大企業を舞台に、社長から新入社員まで様々な立場にいる人々の欲望と愛憎にまみれた人間模様を描き出す。」ということになっているけれど、ストーリーはあってなきがごとし。24歳の新入社員・李想を中心において、社長のシルビア・チャンにふりまわされる会社人間たちの右往左往を描くが、そのシルビア・チャンも会長のチョウ・ユンファの手のひらの上で転がされている。登場人物がやたらと多く、はっきりしたストーリーもないので、途中でどうでもよくなってしまう。しかも、ミュージカル仕立てなのである。これまたたいして効果をあげていないのだけれど。
 注目はウォン・カーウァイ作品で知られる美術監督ウィリアム・チャンが手がけたセット。いかにも作り物めいた近未来的な雰囲気のオフィスなどが独特の雰囲気を醸し出している。ここにけっこうお金がかかっているのではないだろうか。
 もともとは舞台劇だったものを映画化したらしいのだけれど、いったいどういう舞台だったのだろう? わざわざ映画化したのだから、舞台の方は面白かったのかなあ。

【ドラマ】アンダーカバーハイスクール

 韓国ドラマ「アンダーカバーハイスクール」全12話を見終える。
 ある名門私立高校に隠された高宗皇帝から奪われた8,000億ウォンの金塊。それを見つけて国家に返還するために、国家情報院のチョン・ヘソン(ソ・ガンジュン)は高校生として学園に潜入することになる。作戦名は「アンダーカバーハイスクール」。
 同じくクラスになった怪談マニアのいじめられっ子と仲良くなって金塊探しに乗り出すヘソンだったが、担任のオ・スア(チン・ギジュ)からは怪しまれるし、国家情報院の上層部からは目立つことをすれば解任すると脅されているし、さらにはおのれの野望のために金塊を探している学園理事長がことごとくヘソンの前に立ちふさがるのだった。
 前半はどちらかというと学園ドラマといったおもむきで楽しかったのだけれど、途中からは野望むきだしで金塊を探す学園理事長との命がけの闘争のドラマへと変貌していく。この学園理事長のキャラがめちゃくちゃ強烈で、野望に忠実なおのれこそが正義で、自分に役立たない人間など虫けらと断言してはばからないキャラなのである。なんで学園理事長ごときがそこまで力を持っているんだ?と不思議になるぐらいの権力を持ち、ヘソンの属する国家情報院すら自由に操ってしまう。
 最初のうちは学園ドラマが楽しくてよかったので、金塊をめぐる血なまぐさい展開なんてなくてもいいのにとか思っていたのだけれど、この学園理事長の存在に圧倒されて、だんだん金塊をめぐる争いからも目が離せなくなってしまう。本当にこの学園理事長のキャラクターが凄すぎて、彼女の存在でドラマのテンションが何段階も上がってしまっている。
 一方で、コミカルな展開も多く、とりわけヘソンとチームを構成する国家情報院のメンバーのポンコツぶりが、ともすれば重くなりそうな場面にコミカルな味を添えている。
 ヘソンの担任教師となったオ・スアを演じるチン・ギジュもなかなかの好演で、いい味を出している。なにしろ、最初のうちはヘソンを高校生と思っているのに、その高校生になんで胸がときめいてしまうのかと動揺したりするところが可愛い。
 そして、居酒屋を経営しているオ・スアの母親が、ある場面でとんでもない正体が披露して大爆笑してしまった。なに、その展開。
 もともとは、『鉄槌教師』に出ていたチン・ギジュが出ているという理由で見はじめたドラマだったのだけれど、チン・ギジュに関係なく楽しむことができた。
 1話が70分前後とちょっと長かったりするのだけれど、結局は一気に全12話を観てしまったのだった。

【読書】真崎守『私の手塚治虫1』真崎守プロジェクト

 真崎守『私の手塚治虫1』真崎守プロジェクトを読了。
 先日読んだ『すくりぶるの季節』の続篇。虫プロダクションの採用合格通知をもらうまでが『すくりぶるの季節』で、この『私の手塚治虫1』では虫プロ入社直後のあれこれをかなり赤裸々に描いている。
 いままでに虫プロ関係では山本暎一による『虫プロ興亡記』を読んでいて、内容はすでにまったく覚えていないのだけれど、ここまで赤裸々には描いていなかっただろう。
 会社としての体裁をなしていない虫プロが、「鉄腕アトム」のテレビアニメだけでてんてこ舞いしている最中に、「ナンバー7」「虫プロランド」の企画が動き出す。ところが、肝心の手塚治虫が忙しすぎて、アニメに時間を割くことができない。でも、自分がやらないと気が済まない手塚治虫のせいで、現場が勝手に作業を進めることは許されない。手塚治虫による絵コンテがあがってこないことには、何も始めることができないのだ。「ナンバー7」「虫プロランド」のためにスタッフは揃えたが、そのまま何もできずに1年間も放置されたりしてしまうのである。そうやって、現場の人間はどんどん疲弊していく。真崎守は、そういう状況をめちゃくちゃ臨場感たっぷりに描いている。
 真崎守が制作進行という、すべての部署にかかわる仕事をしていたことで、当時の虫プロの状況を俯瞰的に見渡していたこともあって、本書の内容がとりわけ充実したものになっているのだろう。
 それにしても、「鉄腕アトム」のアニメ1話を作成するためにかかる費用は200万から250万ぐらいで、それをテレビ局に70万で売っていたというのだからめちゃくちゃだ。その差額を手塚治虫の描いたマンガの原稿料で埋めていたのである。
 手塚治虫に関するとんでもないエピソードが次々に出てくる。例えば、虫プロに組合を作りたいと言い出したのが社長である手塚治虫なのである。仕方なく組合を作ると、就業規則だの業務規程だのを作らなければならず、それを作ると手塚治虫が自分も組合と一緒になって役員会と交渉しますとか言い出すのだ。
 手塚治虫によって、みんなが振り回されていく。その現場はまさに修羅場といっていいだろう。とうとう真崎守も我慢できずに、手塚治虫にむかって怒りを爆発させようというのが本書のクライマックス。いやはや、すごいドラマだ。
 ちなみに1990年にJICC出版局から刊行された真崎守「わたしの手塚治虫体験(一)」という本があるのだけれど、これを読んだのはもう30年以上前のことなので、どういう内容の本であったのかまったく覚えていない。本書とはどういう関係になっているのだろうか? また、本書は『私の手塚治虫1』とあるのできっと『私の手塚治虫2』も出るに違いないと思っているのだけれど、ネットで現在連載されているのは「わたしの手塚治虫体験(二)」となっていて「わたしの手塚治虫体験(一)」の続篇であるらしい。なんともややこしい。いずれにしても、ぜひとも続きが読みなくなる刺激的な本だ。

【読書】C・J・ボックス『黄昏の銃声』創元推理文庫

 C・J・ボックス『黄昏の銃声』創元推理文庫を読了。
 約1.5キロの超長距離射撃によって、トウェルブ・スリープ郡判事ヒューイットの妻が瀕死の重傷を負う。ヒューイット判事を狙った射撃によるものと推測され、激怒した判事はありとあらゆる法執行官を呼び集め、犯人捜査を命じる。その中には当然ながら猟区管理官ジョー・ピケットもいた。鷹匠ネイトの協力を得て射撃地点を特定するなどの成果をあげるが、無能きわまりない新任保安官はあろうことか、容疑者としてネイトを逮捕してしまう。一方、前作でジョーとネイトが関わったメキシコの暗殺者集団の魔の手が、ネイトに復讐するためにネイトと彼の妻、生まれたばかりの娘に忍び寄っていた。
 猟区管理官ジョー・ピケットを主人公とするシリーズの第20弾である。本国では1年1冊ペースで刊行されており、作中でも同じだけの時間が流れているので、ジョーも次第に歳をとってきた。立ち上がるときに、膝がポキッと音を立てたりするようになっているのだ。娘たちもみな独立して家を出て、いまは妻のメアリーベスとの二人暮らしだ。一方のネイトは結婚して娘も生まれ、なんと町に行く際に「パンパースを買ってきてくれる?」と頼まれるような生活をしていた。おおっ、ネイトがパンパースを買う姿を見ることになろうとは!(実際にはネイトがパンパースを買う場面は描かれていないのだけれど、想像するだけでも笑える)
 こういう主人公たちの変化を眺めることができるのが、長年続いたシリーズを読む楽しみではあるのだけれど、本書を単独で読んでも十分に面白い。1作目から読まなければなどと思うと、ハードルが高くなってしまうだろうけれど、とりあえず本書を読んで面白いと思ったら過去の作品を読むので十分。本当に面白いシリーズなので、ぜひぜひご一読を勧めたい。
 本国ではすでに第26作まで出ているそうだが、翻訳の出た20作をずっと読んでいて、まったくワンパターンに陥ることなく、すべてがみごとに面白いまま。こんなシリーズはそうはないのではないだろうか。毎回書いているような気がするのだけれど、早くも次巻の翻訳が出るのが待ち遠しくて仕方がない。
 なお、ほぼ毎回、官給の自動車をオシャカにしているジョーなのだけれど、今回はどうなるのか。それは読んでのお楽しみだ。