【映画】美に魅せられて

 インド映画『美に魅せられて』を観る。
 ガス爆発の事故で夫リシュが亡くなる。だが、焼け残った頭骨には殴打の痕があり、殺人事件としての取り調べが開始される。警察は妻ラーニーこそが犯人であると決めつけて過酷な取り調べをおこなうのだが、その過程で徐々に夫婦の過去が明らかになっていく。
 夫婦は見合い結婚だった。田舎町ジュワーラープルに住むエンジニアのリシュはラーニーに一目惚れであったが、デリーで美容師をしていた都会的で先進的な性格のラーニーはなにごとにも消極的でおとなしい性格のリシュを受け入れることができないでいた。しかも、ある失敗を契機にリシュはラーニーに背を向けるようになり、夫婦仲は冷え切ってしまう。罪の意識を感じたラーニーはリシュに近づこうとするのだけれど、今度はリシュがラーニーを受け入れようとはしなかった。
 そんなところに現れたのが、リシュとは正反対の性格をした従兄弟のニールだった。男としての魅力を発散するニールにラーニーは惹かれていき、ついには過ちを犯してしまう。だが、ニールにとってそれは遊びに過ぎず、ラーニーから駆け落ちをもちかけられると、さっさと逃げ出してしまう。
 心からラーニーのことを愛していたリシュは、妻が浮気をしていたという事実に衝撃を受け、妻を憎むようになる。一方のラーニーは、初めて夫の愛がいかに大切なものであったのかに気がつき、ひたすら許しを乞う。だが、どうしても妻を許すことのできないリシュは、ラーニーを殺したいとまで思い詰めるようになるのだった……。
 というわけで、はたして事件の真相は……となるのだが、正直、この設定で普通に予想される真相ではある。が、警察がずっとこだわっていた凶器の正体にはびっくりさせられたし、それよりもこっちの予想を大きく上回る“ある真相”には驚愕させられた。さすがにこの展開は予想しなかった。まさにドギモを抜かれた。でも、どう考えても無理だからね、あれ。
 そして、そういうミステリーとしての謎解きはともかくとして、夫が一方的に惚れこんでいた関係が、次第に拒絶、憎悪へと変貌していき、逆に妻の拒絶が懇願、愛情へと変貌していくという人間ドラマが重厚でたっぷりと見せてくれる。
 夫リシュを演じているのはヴィクラーント・マッシー。おとなしくて臆病だった人物が、やがて偏執的で冷酷な人物に変貌していく過程をリアルに演じている。表情がぜんぜん別人になっていく。
 妻ラーニーを演じているのはタープシー・パンヌー。ちょっと崩れた色気のある女優で、この女性だったら家庭が崩壊しても不思議はないという妙な説得力がある。一方で、芯の強さを感じさせる目力もあり、彼女なら警察の過酷な取り調べも乗り切れて当然という印象も持ってしまう。『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』にも主要なキャラクターで出演している。
 ちなみに邦題の『美に魅せられて』というのは、まるっきり内容とリンクしていないので、なんだかなあという感じ。もう少し内容に寄り添った邦題をつけてほしいものだ。