【映画】BAHAY NA PULA

 ブリランテ・メンドーサ監督のフィリピン映画『BAHAY NA PULA』を観る。

 ホン(ジーアン・リム/Xian Lim)と妊娠してお腹が目立ちはじめているジェーン(ジュリア・バレット/Julia Barretto)の夫婦は、アメリカ占領期にジェーンの曾祖父が建てた古い家の売却手続きのために、その家へとやってくる。周辺に手ごろな宿泊施設がないため、ふたりは何年も施錠されたままだったその家に泊まり込むこととなる。泊まり込む間、ふたりの世話をしてくれるのは、ジェーンの祖父の時代からその家の管理を任されていたリシン(Erlinda Villalobos)だった。
 だが、その夜、古い蓄音機が突如として音楽を奏で始め、日本兵の亡霊が現れる。その家はかつて、日本兵が集団で若い女性たちを暴行した現場だったのだ。しかも、その暴行に加わろうとしなかった若い日本兵とリシンが恋に落ちた家でもあった。
 家を売却するための書類はほぼ揃ったが、あとは市長の承認だけとなるのだが、歴史的な価値のある家の売却を禁止する法律が成立したため、市長はなかなか承認書類を発行しようとはしない。たまたま市長のアシスタントにむかしのボーイフレンドのロジャー(マルコ・グマバオ/Marco Gumabao)がいたため、ジェーンはロジャーに仲介を頼み込む。ロジャーは家の価値を算定する技術者にワイロを渡して、家に歴史的な価値がないという書類を用意させる約束をとりつけるのだが、その直後に技術者は事故で悲惨な死を遂げてしまう。
 そのことを告げるために家を訪れたロジャーは、なにかに取り憑かれたかのように、強引にジェーンに迫っていく。それは、かつての日本兵の姿に重なっていき、それを見たリシンはロジャーを背後から刺し殺してしまう。そして、それにショックを受けて出血の始まったジェーンは病院に担ぎ込まれるのだが、そこにも日本兵の亡霊が現れるのだった……。

 ブリランテ・メンドーサ(Brillante Mendoza)がホラー映画を撮ったということで気になっていた作品なのだけれど、作品としてはかなりオーソドックスなホラー映画だった。もちろん、ブリランテ・メンドーサが監督をしている以上、それなりのレベルに達した作品にはなっている。それなりに怖い。じわりじわりと怖がらせるシーンもあれば、けっこうえぐい描写のシーンも用意されている。
 ただし、なんら新しいものはない。ブリランテ・メンドーサがホラー映画を撮るからには、他の凡百の監督の手がけたホラーとは異なる、なにかしらの新しい要素があるのではと期待したのだけれど、本当に非常にオーソドックスなホラー映画だった。
 主役のジェーンを演じているジュリア・バレットは、『Vince & Kath & James』で注目されるようになり、『愛して星に(Love You to the Stars and Back)』『Unexpectedly Yours』『Between Maybes』『Block Z』といった話題作に出続けている。ずっとジョシュア・ガルシアとペアで出演していることが多かったのだけれど、ここにきてそれぞれ別々の作品に出るようになっているらしい。
 ホンを演じているジーアン・リムはモデル出身の二枚目俳優だが、本作ではいまいち存在感が薄い。『それぞれの記憶(Untrue)』のときには、なかなか鬼気迫る演技で圧倒的な存在感を示していたのだけれど。
 ちなみに、若い頃のリシンと恋に落ちる日本兵……というよりも、ジェーンの前に現れる日本兵の亡霊を演じていたのは、原敬彦というフィリピン在住の俳優であるらしい。同じくブリランテ・メンドーサ監督の『AMO 終わりなき麻薬戦争』、ブリランテ・メンドーサが脚本を書いた『Japino』にも出ているとのこと。