【映画】Third World Romance

 フィリピン映画『Third World Romance』を観る。

 パンデミックで職を失ったブリトニー(Charlie Dizon)は、たまたま出会ったアルヴィン(Carlo Aquino)の手助けで、彼の勤めるスーパーで働き出す。
 ブリトニーの母親ギン(Ana Abad Santos)はオマーンに出稼ぎに出ていたが、パンデミックのせいで給料を受け取れないまま職を失っていた。ブリトニーは帰国の航空券の費用をなんとかするから家に帰るようにと説得するのだが、海外への出稼ぎの面倒をみているエージェンシーが仕事を探してくれるから、オマーンにとどまりたいといって帰ろうとしない。
 徐々に親しくなっていくブリトニーとアルヴィン。
 アルヴィンから将来の夢を聞かれたブリトニーは「母親が帰国するための航空券を手に入れるのが最優先の夢だ」と答える。同じことをブリトニーから聞かれたアルヴィンは「自分の夢は幸せになることさ」と答える。「それって、どういう夢なのよ」と笑ったブリトニーだったが、アルヴィンとつきあううちに「私の夢もいまは同じ。幸せになるのが私の夢」と言うようになる。
 アルヴィンの家には、何人ものゲイのメンバーが家族として賑やかに暮らしていた。初めてアルヴィンの家に行ったブリトニーは、海外の出稼ぎに行っていたダダ(Gardo Versoza)がアルヴィンの父親であると勘違いして挨拶するのだが、なんと、ダダはアルヴィンの父のボーイフレンドだった。そう、アルヴィンの父親はゲイだったのである(とはいえ、早くに亡くなった母親と結婚してアルヴィンが生まれてはいるのだけれど)。この場面がなかなか秀逸で笑わせてくれる。
 近々オマーンに出稼ぎに出るというダダの力添えで格安の航空券を手に入れることのできたブリトニーは、ようやく母親を帰国させる。ところがその母親は、膨大な借金を抱えていた。母親が帰国をしぶっていたのは、その借金があるからだったのだ。
 返済の足しにするために、ブリトニーはスーパーの店長にシフトを増やして欲しいと頼み込み、なんとか勤務時間を増やしてもらう。だが、ブリトニーの弱みにつけ込んだ店長によって通常の半分の時給しか出してもらえないし、残業費もなしだ。それでも仕方なくブリトニーはその条件を受け入れる。
 ある日、ブリトニーがレジに入っているときに、悪質な客が商品を破損するが、その責任をブリトニーに押し付けようとする。そこにわって入ったアルヴィンだが、客を怒らせたという理由で店長から首を言い渡されてしまう。その際に、自分まで首になることを恐れたブリトニーが、店長にむかってアルヴィンをかばおうとはせずにじっと黙っていたことから、アルヴィンはブリトニーから離れていってしまう。
「どうしてもお金が必要で、首になるわけにはいかなかったの」
 泣きながら必死に許しを乞うブリトニーだったが、アルヴィンはブリトニーの嘆願を聞き入れずに、彼女のもとを去って行くのだった……。

 少し前なら、スターシネマがこの手の恋愛映画をコンスタントに撮っていたのだけれど、スターシネマが映画制作からほぼほぼ撤退してしまったために、最近ではなかなかこういう映画にはお目にかかれなくなっていた。ところが、そのスターシネマの子会社であるブラックシープ制作でスターシネマお得意の恋愛映画が復活したというのが本作である。最近はビバフィルム制作の映画ばかりを観てうんざりしていたのだけれど、久しぶりにフィリピン映画らしい恋愛映画を観ることができて、実に嬉しいかぎり。
 この手の恋愛映画では、ふたりのうちのどちらかが上流階級に所属しているという設定の映画が多いのだけれど、本作はふたりともとことん貧乏だったりする。ブリトニーは冒頭でパンデミック対策で配布される支給物資を大量にせしめてきて、その中のカップ麺を食べて食いつないでいるし、アルヴィンも13才の時から港で働いたりしていろいろな職を経験してきたという設定になっている。「韓国料理を食べてみたい」というふたりがデートをするのは、韓国料理店の前の路上で、そこで持ってきた焼き肉を野菜にくるんで食べるのである。韓国料理店で食事をするなどという贅沢は、とてもふたりにはできないのだ。
 IMDbでのレビューをみると、実際の自分たちが、日々の生活で直面する葛藤をリアルに描いているという点が共感を呼び、非常に高い評価につながっている。

 ドウェイン・バルタザール監督(Dwein Baltazar)の作品を観るのは今回が初めてだが、テレビシリーズをメインに仕事をしてきた監督のようだ。劇場映画は、最近では2021年公開の『Hello, Stranger: The Movie』があるが、これもテレビシリーズからスピンアウトして作られた映画である。
 くりくりっとした目がチャームポイントのチャーリー・ディソンはというと、アントワネット・ハダオネ監督の『ファンガール(Fan Girl)』で主人公の女子高校生を演じていた女優だが、あの映画では芸能人を追いかけていって、一緒にタバコを吸い、マリファナを吸い、コカインを吸引し、挙げ句の果てにはセックスをするという役柄で、あまり魅力を感じられる女優という印象はなかった。ところが本作を観ると、可愛いではありませんか。ずば抜けた美人というわけではないのだけれど、ちょっとした瞬間に見せる表情がとてもいいのだ。ふだんはぜんぜん似ていないのに、ふとした表情が広末涼子に似ていたりする。
 一方、いかにも人の良さそうな顔つきをしているカルロ・アキノはというと、子役として『Magic Temple』『Kokey』といった作品で早くから活躍していた俳優で、マリルー・ディアス=アバヤ監督の『光、新たに(Bagong buwan)』、ウェン・V・デラマス監督の『Ang tanging ina』などなどトップクラスの監督の作品にも出ている。最近では、ダン・ビレガス監督の『Exes Baggage』、アイリーン・ビレモア監督の『ULAN』といった作品にも出ている。
 ちなみに、映画を観ている間、ずっと誰かに似てるなあと思っていたのだけれど、映画が終わってからようやく気がついた。どことなく満島真之介に似ているのだ。

 といったところで、トリビアを披露しよう。
 突然の大雨が降り出したところで「ティクバランが結婚しようとしているの?」というセリフがあるのだけれど、ティクバランというのはフィリピンの山奥に潜んでいる頭と足は馬、体は人間という伝説上の生き物のこと。ティクバランが結婚式を挙げるときには天気雨が降ると言われている。
 アルヴィンがブリトニーから渡された硬いパンを必死に飲み込むシーンで、突然「ダルナ!」と叫ぶのだけれど、ダルナというのはフィリピンでは知らない者のいないスーパーヒロインのこと。宇宙から飛来したマジックパワーを秘めた石を飲み込みながら「ダルナ!」と叫んで、スーパーヒロインに変身するのである。