【映画】香港ノクターン

 井上梅次監督が香港に渡って撮った『香港ノクターン(香江花月夜)』を観る。

 いささか落ち目のマジシャンである父親(蔣光超)と一緒に舞台に立っていた3人娘。この3人娘の人気でなんとか舞台を続けていた父親だったが、ギャラを前借りしては若い女に貢いでばかり。ついに堪忍袋の緒が切れた3人の娘は、それぞれの道へと踏み出していく。次女のチュエンチュエン(チェン・ペイペイ)は、作曲家の陳子青(陳厚)の立ち上げた香江歌劇団のメンバーとして活躍するようになる。三女のティンティン(チン・ピン)はバレエ学校の雑務をこなしながらバレエの勉強にうちこむ。長女のツイツイ(リリー・ホー)は騙されて日本に連れて行かれ、身を持ち崩して台湾へと流れて行くが、そこでミュージシャンの方雲泰(凌雲)と出会う。困難を乗り越えながら、それぞれの道を進む3人だったが……。

 インド映画は意味もなく途中でやたらと歌い踊るシーンが入るとか、ろくに知りもしないでケチをつける人間がいたりするけれど、そういうハンチク野郎にこの映画を観せてやりたい。こっちの方がよほど歌い踊っているぞ。ほんのちょっと油断した隙に、じゃんじゃん歌って踊るのだ。最後なんて、ずっと歌い踊るシーンが続くんだぞ。それが楽しいのが映画じゃないか。自分が子どもの頃に観た橋幸夫美空ひばりが共演した時代劇なんかも、けっこう歌うシーンが入っていたぞ。歌い踊るのはインド映画だけじゃない。日本だって、香港だって、みんな歌い踊っていたのだ。
 井上梅次監督が水谷良重倍賞千恵子、鰐淵晴子で撮った『踊りたい夜』(1963)のリメイクとのこと。音楽を担当しているのは服部良一で、最初から最後まで服部良一のメロディが流れ続け、3人娘もひたすら歌い踊るという、実に楽しい映画となっている。撮影は、西本正が賀蘭山名義で担当している。
 1967年制作の香港映画ではあるのだけれど、広東語ではなく北京語が使われている。一昨日観た1969年制作の『飛女正傳』は広東語だったので、このあたりが北京語から広東語へとシフトする移り変わりの時期だったのだろう。
 この頃のショーブラザーズの映画については、過去にあれこれ読んだはずなのだけれど、すっかり頭から抜け落ちてしまっている。覚えていれば、あれこれ蘊蓄を語れただろうに。
 ちなみに、1967年の映画とは思えないほど画質はきれいだった。