香港映画『飛女正傳』を観る。『飛女正傳』というと、自分たちの世代だとチョン・マン、シンシア・カーン主演の1992年版がまっさきに頭に浮かぶのだけれど、それはリメイク作品。オリジナルは1969年にジョセフィン・シャオ主演で撮られたものなのだ。まさか、そのオリジナルを観る機会があろうとは思っていなかったのだけれど、You Tubeにアップされているのを見つけてしまったのだ。
で、ほんのちょっと観るつもりがついつい最後まで観てしまう。いちおう英語字幕と中国語字幕がついてはいるのだけれど、白っぽい画面に白抜きの字幕なので、ほとんど読むことができず。それでも、なんとか分かりやすいストーリーなので、おおよそのストーリーを把握することだけはできた。
お金持ちのお嬢さんのジョセフィン(ジョセフィン・シャオ/蕭芳芳)。父が亡くなり、事業を引き継いだ母親はなにやら怪しげな男とつきあいだしている。夜ごとパーティがあるといって娘の相手をすることもなく、小遣いだけ渡してあとはほったらかしだ。母親から見捨てられたと感じたジョセフィンは、友人とゴーゴーバーに出入りして、そこで強引に手を出してきた男性をビール瓶で殴りつけて怪我を負わせ、女子養護施設に収監されてしまう。
最初のうちこそ環境に馴染めず、いじめにも遭うジョセフィンだったが、バスケットボールの試合で活躍したのをきっかけに仲間が増えていく。まわりには、さまざまな理由で収監された少女たちがいた。必ずしも不良と呼ばれるような少女ばかりではなかったのだが、家庭環境や社会環境が原因で犯罪に手を出さざるを得なかった者たちだった。
施設の責任者であるドゥ所長(ケネス・ツァン/曾江)は、少女たちを正しい道に導くべく、少女たちの側に立った運営をしていた。少女たちのために外部のチームとバスケットボールの試合を企画したり、家族を招いてのファッションショーを企画したりと、日々、努力を重ねていた。
だがある日、ジョセフィンに悲報がもたらされる。ビジネスに失敗した母親が自殺してしまったのだ。母親がつきあっていた男性が原因であると確信したジョセフィンは、復讐のために脱走を決意し、3人の仲間とともに施設を抜け出すのだが……。
途中、女監獄もののドラマになるのかと思いきや、けっこう施設の中は明るくて、収容されている若い女性たちもキャピキャピしていて、それほど陰湿な世界とはならない。最初のうちこそいじめがあったりもするが、そのいじめもたいしたことはなく、なんとも可愛いものだ。おかげで、どちらかというと青春ドラマのような世界が繰り広げられる。
だが、脱走したあたりから、やや暗めの社会派ドラマとしての雰囲気が生まれ、悲劇につながっていく。
最後に、新聞記者にかこまれたドゥ所長が、少女たちが家庭環境や社会環境のゆえに犯罪に走ってしまうこともあるが、それを正すのは私たち大人の役割なのだよと、切々と訴える。そして、ちゃんと刑期を勤めあげて社会に出て働いているリディア・シャムから「所長はこの仕事をしていてむなしくなりませんか」と聞かれて、「君のようにただひとりだけでもちゃんと更正してくれれば、自分の仕事は無駄ではないのだよ」と答え、ふたりで夜道を歩いて行くという余韻たっぷりのラストシーンとなる。
なんとも、しみじみといい映画だ。
が、なによりもまずは、ジョセフィン・シャオがいい。目力があるのだ。しかも、美人である。自分がジョセフィン・シャオを知ったのはジェット・リーの『方世玉』『方世玉2』、あるいは『喝采の扉/虎度門』といった作品なので、若いころのジョセフィン・シャオに触れる機会などまるっきりなかった。本作で初めてアイドル時代の彼女の作品を観たわけなのだけれど、人気があってあたりまえと納得させられてしまった。
そして、ケネス・ツァンが地味ながらもいい役を淡々と演じていて、これまた胸にグッと来る。ケネス・ツァンというと、『男たちの挽歌』のタクシー会社の社長役が印象に強いのだけれど、本作の延長線上に『男たちの挽歌』のキン社長があるのだと思うと、非常にわかりやすい。
他に、テレサ・ハー(夏萍)、シッ・カーイン(薜家燕)、リディア・シャム(沈殿霞)などが出ているとのことだが、見分けがついたのはリディア・シャムだけだった。