【映画】リプレイス 絡み合う欲望

 フィリピン映画『絡み合う欲望(Palitan)』を観る。監督は、『ローサは密告された』などの作品で世界的に評価の高いブリランテ・メンドーサ。東京国際映画祭では特集上映が企画されたこともある監督だ。

 翌年に結婚を控えているジェン(カーラ・ゴンザレス/Cara Gonzales)とジェームズ(ルイス・ホンティベロス/Luis Hontiveros)は、ジェンの父に会うために、海辺にあるジェンの故郷を訪れる。そこでは、ジェンの幼なじみのマリー(ジェラ・クエンカ/Jela Cuenca)とアル(ラッシュ・フローレス/Rash Flores)が結婚の準備をしている真っ最中だった。ジェンとマリーはかつて恋人同士であったが、厳格な信仰者である父親は同性愛を罪とみなし、ジェンをマニラに出すことでふたりの中は引き裂かれていたのだった。だが、ジェンはいまでもマリーのことを愛していることに気がついてしまうのだった。

 正直言って、フィリピンを代表する国際的な評価を得ているブリランテ・メンドーサ監督が、どうしてこの映画を撮ったのか、まったく理解できない。冒頭にウェディング・ドレスの試着室でのセックスシーンがあり、さすがはビバフィルムの作品といささか呆れるが、そのあとはしばらく、ひたすら結婚の準備をする2組のカップルの様子を描いていくばかりで、ドラマはなにもなし。
 ようやく結婚式を控えた主人公たちのバチェラーパーティで、ジェームズとアルたちは売春婦を相手の乱交を繰り広げ、ジェンとマリーは女性同士の絡み合いを繰り広げるという具合で、いつものビバフィルムらしいエロティックなシーンが展開される。その翌日、滝のある水辺に遊びに行った2組が、滝のしぶきを浴びながら並んでセックスをするシーンがあり、このあたりでいったい監督は何を描きたかったのだろうかとかなりイライラしてくる。そして、結婚を控えたマリーはジェンの求愛を拒みながらも激しいレズシーンが展開される。
 そんな調子で、ぜんぜんメンドーサ監督らしいテーマとかはないままで、実に凡庸なエロティックムービーのまま終わってしまう。フィリピンのある映画評を読むと、「映画の大部分は、長編にするための穴埋めか詰め物のようにしか感じられませんでした。」とのことで、まさにそういう印象の映画なのでした。
 ビバフィルム製作で映画を撮るからには、エロティックなシーンは必須なのだろうけれど、まさかそれだけで終わるような作品であろうとは思いもしなかった。どうやら、ビバフィルムで何本かの映画を撮る契約がかわされ、本作がその最初の1本だったらしいのだけれど。
 ちなみに、撮影自体は「台本なし」ということで、そこだけはブリランテらしさを発揮していたようではある。

 主演女優のカーラ・ゴンザレスとジェラ・クエンカは、ともにビバフィルム所属の人気女優で、とりわけジェラ・クエンカはものすごい勢いで映画に出演し続けている。2021年に『Taya』でデビューしたと思ったら、2022年には9本の映画に出て、2023年にもすでに5本の映画に出ている。
 男優ではルイス・ホンティベロスがちょっとクセのある顔つきで印象的なのだが、最近では数多くのテレビシリーズに出演しているようだ。