【映画】インモラル 復讐の餌食

 フィリピン映画『インモラル 復讐の餌食(Kaliwaan)』を観る。

 警備員のバイトをしながら学校に通っているブギー(ヴィンス・リロン/Vince Rillon)は、恋人のモニカ(AJ・ラヴァル/AJ Raval)の浮気現場を目的してしまい、浮気相手のラジー(Juami Gutierrez)の頭を握りしめた岩で思い切り殴ってしまう。相手のラジーは、イスラム系有力者の息子だった。マッサージパーラーで働いているモニカが別の仕事に移りたがっている弱みにつけこんで、強引に関係を持ったのだった。
 警察に追求され、モニカは犯人がブギーであると白状してしまう。だが、一方のブギーは警察官である叔父のマーロン(Mark Anthony Fernandez)に助けを求め、マーロンをボスと呼ぶTJ(フェリックス・ロッコ/Felix Roco)の家に匿われることとなる。
 ラジーは一命を取り留めるが、ラジーの家族は復讐すべくブギーの行方を追っていた。また、マーロンはドツボにはまったブギーを救うために、モニカの告発を撤回させるべく動き出す。それぞれの思惑の中で、追い詰められていくモニカ、そしてブギーだったが……。

 正直言って、かなりエグい。めちゃくちゃグロいシーンがある。そうした映像に耐性のある人以外は、絶対に観ない方がいい。自分はスプラッター映画などをけっこう観てきたつもりではあるのだけれど、本作の残虐な拷問シーンにはかなり辟易させられた。きれいさっぱり食欲もなくなった。なにもそこまでリアルに人体を切り刻む映像を入れなくてもいいだろうに。
 その壮絶にグロいシーンを除けば、それなりに見応えのある映画ではあった。たったひとつの過ちをきっかけに、どんどん抜け出すことのできない状況に追いこまれていく若者の焦燥感がそれなりに伝わってくる。「それなりに」ではあるのだけれど。
 というのも、主人公ブギーの行動が実に軽率なのだ。匿われた家でじっとしていればいいものを、平然とあっちこっちをうろつきまわり、モニカの家に現れたり、マーロンの家に現れたりするのである。それで捕まらないほど、フィリピンの警察は無能なのか? というか、マーロンの家に出入りしているところを誰かに見られたら、警察官であるマーロンの立場が一発でなくなってしまうだろうに。
 そして、これはビバフィルム制作の映画なので仕方がないのだけれど、必要のないセックスシーンが繰り返される。しかも、レズビアンあり、男ひとり女ふたりの3Pあり、近親相姦ありで、これがまたストーリーにはまったく必要のないシーンだったりするのだ。
 監督は、東京国際映画祭で『アンダーグラウンド』『ブローカーたち』が上映されたダニエル・R・パラシオ(Daniel Palacio)。ブリランテ・メンドーサ監督が主宰するワークショップに参加して、『アンダーグラウンド』で監督デビューした、メンドーサ門下生のひとりである。メンドーサ監督の影響が強く、明らかにインディペンデント映画の作り手なのだけれど、メンドーサ監督がビバフィルムでエロティックな映画を撮りだしたのと足並みを揃えて、彼もビバフィルムで裸を売り物にする映画作りに参画している。本作が監督3作目で、2023年に『HUGOT』『BISHO!』を撮っている。
 主演のヴィンス・リロンは、長編映画デビューがブリランテ・メンドーサ監督の『ローサは密告された』で、その後もメンドーサ監督の『ミンダナオ』『義足のボクサー』『復讐』『Sisid』『ヴァージン・フォレスト』『FEAST-狂宴-』『Pula』といった作品に出続けている。
 そして、モニカを演じているAJ・ラヴァルはというと、ビバフィルムの売れっ子女優のひとりで、ロリっぽい童顔が実に可愛らしい。最近ではエロティック映画以外にも進出しているようで、実に喜ばしい。