【読書】芦辺拓『奇譚を売る店』光文社文庫

 芦辺拓『奇譚を売る店』光文社文庫を読了。
 「——また買ってしまった。」というフレーズで始まる6篇の幻想的な作品を収めた短編集。いずれも古書店で手に入れた本もしくは資料がきっかけとなる奇妙な物語なのだが、「——また買ってしまった。」という導入部の一文は古書マニアであれば誰もが強く強く共感しまうフレーズであろう。自分も古本大好き人間なので、他人事ではないような感覚を持って読み終えてしまった。
 各話の主人公「わたし」は、買ってしまった古書に取り憑かれ、奇妙な運命に翻弄されていく。いずれも、現実と異界との判別があやふやな運命に見舞われていく。まさに古書店こそは「奇譚を売る店」なわけだが、最終話の「奇譚を売る店」に至ると、それまでの5話を飲み込んでいく著者のたくらみに戦慄することとなる。
 自分も「——また買ってしまった。」と思いながら古本屋を出たあとで、なにやら奇妙な運命にもてあそばれることになるのではないだろうかと、そんな気にさせられる作品集でありました。