【読書】R・L・スティヴンソン『バラントレイ卿』雄鶏社

 R・L・スティヴンソン『バラントレイ卿』雄鶏社を読了。
 スコットランドの名家・ダリスディア家。そこには、年老いた当主のダリスディア卿、ありあまる才能を持ちながらも悪魔的な性格をも備えた長男のジェームズ、凡庸ながらも誠実な人柄の次男のヘンリ、両親を失ってダリスディア家に養われている美貌のアリスンの4人が暮らしていた。
 名誉革命でフランスに追われたジェームズ2世の孫プリンス・チャーリーが王位を僭称してスコットランドに上陸したという知らせに、兄弟のひとりは王子軍に参加し、ひとりはジョージ王の機嫌を損ねないために家にとどまることにする。本来なら後継ぎであるジェームズが家に残り、ヘンリがジェームズ王のもとに駆けつけるべきだったが、ジェームズは強引に自分が家を出ることで押し切ってしまう。だが、やがて届いたのはジェームズが戦死したという知らせであった。
 ジェイムズと結婚するはずだったアリスンはヘンリと結婚して子どもを産み、悲劇を乗り越えた平和な日々を送るはずであった。
 だが、実はジェームズは生き延びていた。それどころか、海賊として幾多の修羅場をくぐり抜け、さらには凶悪な犯罪にも手を染め、したたかに生き延びていたのだった。そのジェームズがダリスディア家に帰ってきたことから、やがて兄弟が相争う悲劇へと発展していくのだった。
 表面的には善良な弟と悪魔的な兄の対決の物語なのだけれど、兄ジェームズのキャラクターが実に複雑で、単に悪と決めつけられないところに本書の最大の魅力がある。本書はダリスディア家に勤める執事のマケラーによる回想という形式をとるのだけれど、そのマケラーにしても最初のうちはジェームズを蛇蝎のごとく嫌うのだが、嫌いながらもいつしか好意を持たずにはいられない魅力的なキャラクターなのだ。凡庸ながらも善良な弟ヘンリも、次第に偏執的な性格に変貌していく。そのあたりの人間描写が実に見事で、シンプルなストーリーながらも、ぐいぐいと読まされてしまった。
 また、ジェームズが海賊として生き延びるあたりの展開などは、冒険小説として楽しむこともできる。
 著者は『宝島』『ジギル博士とハイド氏』のR・L・スティヴンソン。子ども向けの本で『宝島』を読んだことはあったが、スティヴンソンの小説をちゃんと読んだのは今回が初めて。機会があれば『宝島』もちゃんと読んでみてもいいのかもしれない。
 ちなみに、本書は雄鶏社の新世界文學全集の1冊として出ているものを読んだのだけれど、実はこの新世界文學全集というのは河出書房から刊行された叢書である。そのうちの何冊かが雄鶏社から再刊されたものであるらしい。本書に挟み込まれている月報は河出書房のものだし、新刊案内も河出書房のものとなっている。
 面白いのは、河出書房から出ている新世界文學全集の『バラントレイ家の世嗣』は中野好夫・相良次郎訳なのだけれど、本書の方は清水俊二訳なのである。同じ新世界文學全集なのに、訳者を変えて出し直したということらしい。角川文庫版、岩波文庫版もあるらしい。
 ちなみに本書の場合は、エロール・フリン主演の映画『バラントレイ卿』が公開されたのをきっかけに再刊されたものらしく、表紙だけではなく、中扉などにも映画のスチール写真がふんだんに使われている。角川文庫版もほぼ同じ時期に出ているので、やはり映画の公開に合わせて刊行されたものだろうか。角川文庫の翻訳小説コレクターとしては、ぜひ手に入れたいものである。