【読書】トム・リン『ミン・スーが犯した幾千もの罪』集英社文庫

 トム・リン『ミン・スーが犯した幾千もの罪』集英社文庫を読了。
 大陸横断鉄道完成間近のアメリカ西部。殺し屋として育てられた中国系のミン・スーは、奪われた妻を取り戻すため、ソルトレイクシティからカリフォルニアを目指す。ひとり、またひとりと、妻を奪った者たちに復讐をしながら。その旅に同行することになるのは、予知能力を持つ盲目の老人。そして、異能の者たちが集まった見世物の一座。はたして、その旅の先に待っているものは!
 なんと異形の西部小説であろうか。骨幹は、西部小説によくある復讐譚である。だが、その主人公は殺し屋として育てられた中国人なのだ。そのうえ、予知能力、テレパシー、変身能力、記憶操作、火に包まれても燃えない美女といった超能力の持ち主が主人公の旅に同行するのである。それでいて、決してマーベルコミックスのようなエンターテインメントとはなっていない。香り高き文学ともいうべきエピソード、描写が続くのだ。だが、銃撃戦は銃撃戦で派手に展開される。なんなのだ、この小説は!
 ストレートな娯楽小説ではないので読み手を選びそうなものだが、けっこう誰が読んでも面白い作品なのではないだろうか。少なくとも、自分はワクワクしながら読んでしまったぞ。