★ジョー・R・ランズデール『サンセット・ヒート』早川書房

 ジョー・R・ランズデール『サンセット・ヒート』早川書房を読了。
 『ムーチョ・モージョ』などのハップ・コリンズ&レナード・パインシリーズのハメを外したかのようないささか下品な作品を楽しんだあとで『ボトムズ』を読んだりすると、「おいおい、こいつは文学的な香りすらするなかなか正統的なミステリーじゃないか」とか思ったりしたのだけれど、本作にはその両方の魅力が詰まっている。
 壮絶な嵐に襲われ家が吹き飛ばされようというさなか、赤毛のヒロイン、サンセットは、暴力を振るいながら強引に彼女を犯そうとする夫の頭を38口径のリボルバーで撃ち抜く。なんとなあ、この壮絶な場面が小説の幕開けなのである。家は竜巻によって跡形もなく吹き飛ばされ、ほとんど全裸のヒロインの顔は夫に殴られて腫れ上がっている。が、そんな彼女が暴力のまかり通る西部の町の治安官に就任してしまう。そして、黒人が所有する畑から発見された甕に入れられた赤ん坊の遺体の捜査に乗り出すことで、さらなり暴力の連鎖に巻き込まれていくのだった。
 登場してくるキャラクターが、いずれもクセモノ揃いだ。ハンサムな流れ者のギター弾きのヒルビリー、サンセットの前に立ちふさがる町の実力者ヘンリー、ヘンリーと共謀して何かを企んでいる得体の知れないマクブライト、マクブライトの傍らに控える頭のいかれた黒人のツー、森の奥に住みヒロインに恩義を感じている巨漢の黒人のブルなどなど、一癖も二癖もあるキャラクターが次々に登場してくる。そのくせ、そうしたキャラクターを殺すことに、作者はまったくためらいがなく、「えっ、そんなにあっさり!」とびっくりするほど簡単に退場させてしまうのである。
 最後は、仲間を引き連れたヒロインが散弾銃を手に悪党の巣窟に乗り込んでいくという西部小説のお約束の展開になるのだけれど、そこで繰り広げられる銃撃戦が定型をみごとに外しているところなどは、さすがはランズデールといったところなのだろう。

 まだ手元には未読のランズデールの小説が何冊かあるので、実に楽しみだ。