★トーマス・サヴェージ『パワー・オブ・ザ・ドッグ』角川文庫

 トーマス・サヴェージ『パワー・オブ・ザ・ドッグ』角川文庫を読了。
 西部小説の名作ということで読みだしたのだけれど、娯楽小説としての西部小説ではなく、いわゆる文学作品なのでありました。正直、自分にはこの作品の良さが分からないし、ラストのオチも見え見えだったので衝撃もなかったし。
 1920年代のモンタナ州。フィルとジョージの兄弟は広大な牧場を保有していた。経済的にも恵まれ、安定した生活をしていた2人だが、あるときジョージが子持ちの未亡人ローズと出会って結婚したことで、兄弟の間に亀裂が入っていく。フィルは、自分の価値観と相容れない存在のローズを精神的に追い詰めていき、ローズはそのストレスからアルコールに逃げ込むようになるのだが……。
 この兄のフィルというのが、実に陰険でどうしようもないキャラクターなのだけれど、なぜか小説内ではそのような評価にはなっていないのが、どうにも納得がいかない。ローズに対して、表だって指摘できないような、ささいな嫌がらせを執拗に繰り返す男だというのに。時には扱いにくくなることはあるが、基本はいいヤツ、みたいな扱いなのである。いやいや、すんげえいやなヤツだと思うぞ。
 本の裏表紙には「美しい大自然のなか、社会に潜む飲酒の害や人種、同性愛への差別に斬り込み、絶賛を得た幻の名作」とあるのだけれど、えっ、同性愛への差別に斬り込むような場面てあったっけか?
 まあ、こういう西部小説もあるのだろうけれど、もっと娯楽小説としての西部小説の名作を読んでみたいんだよなあ。アメリカでは山のように西部小説が書かれているのだから、めちゃくちゃ面白い作品がいくらでもあると思うんだよなあ。たまには、そういう作品をピックアップして翻訳してくれないものだろうか? それとも、どんなに面白い作品でも、日本では売れないのかなあ。