【映画】Becky & Badette

 フィリピン映画『Becky & Badette』を観る。

 いつか歌手として成功することを夢みるベッキー(ユージン・ドミンゴ/Eugene Domingo)、映画スターとして成功することを夢みるバデット(ポクワン/Pokwang)。高校時代からの親友のふたりは、いまも夢を追いかけながら大企業の清掃係として働いている。だが、そんな夢が叶う日はとても来そうにはなかった。そんな彼女たちがいつも楽しんでいるのは、憧れの映画スタ-、ビルマ・サントスのビデオを観ながら、ビルマ・サントスになりきって映画のシーンを完璧に再現してみせることだった。
 ところがある日、同窓会に出席したふたりは、成功した同級生たちの中で自分たちだけが置いてけぼりになってしまったうっぷんからベロンベロンに酔っぱらってしまい、舞台の上にあがると演説を始めてしまう。だが、いつもの演技遊びのクセが出て、「自分たちは愛し合っている。レズビアンなの。同性愛者には優しくない世の中だけど、私たちは負けない」と、ついつい熱演してしまったのだった。
 ところが、その動画がSNSにアップされ、多くの人々に感動を与えてしまう。大ごとにならないうちに「あれはいたずらだった」と白状しようとするのだが、そこに有名なミュージシャンのアイス・セグエラ(Ice Seguerra)からベッキーに「ふたりの動画を見て感動した。君のために曲を作ったので、アルバム製作に参加してほしい」と電話が入ってしまう。大喜びしたところで、ふと素に戻って「でも、あれは嘘だったと白状しないと」と思い返すのだが、そこに映画監督のシーグリット・アンドレア・ベルナルド(Sigrid Andrea Bernardo)からバデットに「あなたの動画を見て感動したわ。こんど作るテレビシリーズでぜひとも主役を演じてほしいの」と電話がはいってしまい、いまさら嘘だとは言えず、ふたりして芸能界デビューを果たしてしまう。なんとなんと、ふたりは一瞬にして時の人となってしまったのだった。多くの同性愛者にカミングアウトする勇気を与える存在となってしまったのだった。
 かくして本当の姿を隠して芸能活動を続けるふたりだったが、高校時代にふたりで想いを寄せていたペペ(ロミニック・サルメンタ/Romnick Sarmenta)が登場してきたことで、レズビアンを演じるふたりの間に亀裂が生じてくるのだった……。

 監督は『ダイ・ビューティフル』『ゲームボーイ』のジュン・ロブレス・ラナ。同性愛者の立場から、同性愛を題材にした作品を数多く撮っているのだけれど、その作品は本作のようなコメディであったり、『ある理髪師の物語』『ブワカウ』『ダイ・ビューティフル』のようなシリアスなドラマであったり、あるいは『Haunted Mansion』のようなホラー映画であったりと、実に多岐にわたっている。本当に撮りたい映画を撮るために、営業成績の期待できる娯楽作品も撮っているというようなことを以前に語っていたが、本作は娯楽作品と割り切って撮った作品なのだろう。しかし、それであっても同性愛をめぐる問題をきちんと取り扱っているところが、ラナ監督らしいところだ。
 主演のユージン・ドミンゴとポクワンは、フィリピンのトップクラスのコメディエンヌで、ふたりで共演した作品も数多くある。ふたりともシリアスな映画もこなす芸達者な女優で、本作でもビルマ・サントスの主演映画のシーンを完璧に再現して見せたりして、芸達者ぶりを遺憾なく発揮している。
 ちなみに、ラナ監督が同じく2023年に撮った『Ten Little Mistresses』というコメディにも、ユージン・ドミンゴとポクワンのふたりは出ていたりもする。
 逆恨みからふたりに復讐を企む同級生にアゴット・イシドロ(Agot Isidro)、テレビコマーシャルの監督に『Kita kita』のエンポイ・マルケス(Empoy Marquez)、ふたりのマネージャー役に『The Boy Foretold by the Stars』のエイドリアン・リンダヤグ(Adrian Lindayag)、ふたりが清掃係をしている会社の社員にイーザ・カルザド(Iza Calzado)などが出ている。
 また、ミュージシャンのモイラ・デラ・トーレ(Moira Dela Torre)、アイス・セグエラ、映画監督のシーグリッド・アンドレア・ベルナルドが本人の役で出演もしていたりして、このあたりはラナ監督のお遊びなのだろう。
 エンディングでは、登場人物のその後が簡単に触れられているのだけれど、バデットはとうとう夢が叶って『When I Met You in Tokyo』でビルマ・サントスと共演したが、その出演シーンはすべてカットされていたのだった、というところで思わず笑ってしまった。『When I Met You in Tokyo』というのは昨年のメトロマニラ・フィルム・フェスティバルで上映された作品で、意外とロングラン上映が続いた作品だったのだけれど、ポクワンが本作に出ているという事実はなさそうだ。なお、本作も同じく昨年のメトロマニラ・フィルム・フェスティバルに公式エントリーしている作品なのである。