★スーパー30 アーナンド先生の教室

 インド映画『スーパー30 アーナンド先生の教室』を観る。
 数学に関する天才的な能力を持ち、ケンブリッジ大学の入学を許可されながらも、貧しさゆえに留学がかなわなかったアーナンド(リティク・ローシャン)。彼の能力に目をつけた予備校の経営者から講師として採用され、カリスマ講師としてメキメキと頭角を現し、高収を手にするようになる。だが、かつての自分のように、才能がありながらも貧しさゆえに学ぶことすら許されない子どもたちが多くいることに気がつき、予備校を辞職するとインド工科大学への進学を目的とする無料の私塾を開校することにする。そして、インドの各地から集まってきた子どもたちから30人の子どもを選抜し、寝食の面倒をみながら彼らの才能を引き出していく。だが、収入のないアーナンドはあっという間に経済的に行き詰まってしまう。また、このことをよく思わない予備校経営者などから、さまざまな妨害を受けることにもなるのだった。

 実話をベースにした作品である。だけど、「実話をベースにした映画だけれど、すべて実話に基づいているわけではありません。」というキャプションが冒頭に出てくる。そりゃ、こうまで予備校経営者を悪役に描いたら、実話と言い張るわけにはいかないよね。

 いちばん盛り上がるのはクライマックスではなく、予備校に通う恵まれた子どもたちに対する劣等感を克服するために、自分の生徒たちに予備校の前で英語だけを使った劇をやらせるという場面。ここはちょっと感動的。それに対して、病院に運び込まれたアーナンドを守るために30人の子どもたちが知恵を武器に悪党たちと対峙するクライマックスは、予定調和がすぎていまいち盛り上がらない。まるで『ホーム・アローン』のような展開になるので、ハラハラドキドキはまったくなし。ここをもっと過酷に描いたなら、そのあとで待っている感動の場面ももっともっと盛り上がっただろうに。

 先日観た『バンバン!』のリティク・ローシャン主演ということで観たのだけれど、「えっ、これって、リティク・ローシャンなの?」と、思わずキャストを再確認してしまった。『バンバン!』のときと、イメージがまるで違っているではありませんか。『バンバン!』のときには、まぶしいほどのスターとしてのオーラが全開で、しかもキレッキレの身のこなしで派手なアクションやダンスを決めまくっていたというのに、本作ではスターオーラを封印し、アクションもまったくなしで、純粋に演技のみで勝負に出ている。おおっ、リティク・ローシャンて、こういう役者さんでもあったのですね。
 ヒロインのスプリヤーを演じているのはムルナール・タークルという女優さん。なかなか好感度の高い美人さんなのだけれど、すべてをなげうって子どもたちの教育に邁進するアーナンドについていけずに去って行くので、後半はまったく華のない映画となってしまっている。そこは、実話と違ってもいいので、最後まで傍らにいてくれてもいいのに。