★Liway

 マルコス政権下の収容所を舞台にしたフィリピン映画『Liway(2018年)』を観る。

 マルコスが政権を握っていた戒厳令下の収容所〈キャンプ・デルガド〉には、多くの家族が閉じ込められ、暮らしていた。まだ幼い少年のダキップ(ケンケン・ヌヤド/KENKEN NUYAD)は、その収容所で生まれ、両親と生まれたばかりの妹とともに暮らしていた。収容所の外の世界を知らず、収容所の中だけが彼にとっての世界だった。
 父のトト(ドミニク・ロコ/Dominic Roco)は、収容所で生まれ収容所で死ぬのだから、外の世界など知らない方がいいと主張するが、母のダイ(グライザ・デ・カストロ/GLAIZA DE CASTRO)は、いずれ外の世界に出ていくのだからと、積極的に外の世界のことを教え、教会のシスターに頼んでダキップを外に連れ出してもらったりする(収容されているのは両親なので、子どもの出入りなどは特に禁じられていない)。
 ダイがダキップを収容所内の樹に登らせて、初めて海を見


るシーンなどはなかなか感動的だ。
 ある時ダキップは、母がかつてコマンダー・リワイと呼ばれていたことを知る。かつて父と母は、自由のために闘った、有名な反政府ゲリラの闘士だったのだ。政府軍によって平穏な生活を奪われ、追い詰められて反政府ゲリラの世界に身を投じるが、ついには捉えられて〈キャンプ・デルガド〉に収容されていたのだった。
 収容所の生活は楽ではなかったが、それでも人情味のある監視員のおかげでなんとか家族で暮らしていくことができた。だが、冷酷非情な監視員が送り込まれてきたことで、家族は引き裂かれてしまう。収容者の中にはいつの間にか行方不明になる者が出たり、あるいは母親から引き離された幼い子どもが亡くなったりと、次第に絶望的な空気が漂い始めるのだが……。

 戒厳令下の収容所の暮らしであっても、そこしか知らず、疑問にも思わずに、天真爛漫に遊び回る子どもたちの姿が、ほほえましくも痛ましい。少年を主人公とすることで、描かれている世界の悲惨さが多少なりとも薄められているといえよう。それでも、明日に希望を持つことのできない大人たちの絶望的な状況に、暗澹たる気分にならざるを得ない。特に冷酷非情な監視員が送り込まれてきてからの描写は、観続けるのが怖くなるくらいだ。
 そうした状況下で、なんとしてでも子どもだけは守ろうとする親の姿に心を打たれる。途中、ダイとトトは、ダキップを収容所の外に暮らす知人に預けたりもするのだ。だが、どうしても親から離れることのできないダキップは、収容所に戻ってきてしまう。日本に比べて家族の絆が非常に強いフィリピンでは、当然そうなってしまうのだろう。
 ラストがどうなるのかはここには書かないが、思わず泣かされてしまった。戒厳令下のフィリピンを描いた作品は数多くあるが、本作はその中でもかなり秀逸な作品であると言えよう。

 ちなみに、本作は実話の映画化である。こうした収容所で無数の行方不明者が出たり、理不尽な死に襲われたりというできごとは、マルコス政権下では実際に起きていたことなのである。エンディングには、実際のコマンダー・リワイ、コマンダー・トト、ダキップの写った写真や新聞記事などが映しだされ、登場人物たちのその後の人生が簡単に紹介されていく。そして、衝撃的な文章が画面に登場する。少年ダキップは、その後、両親の了解を得て「キップ」と名前をあらためたというエピソードが紹介されるのだ。なんと、本作の監督キップ・オエバンダは、このダキップ少年だったのである。

 ダキップ少年を演じているケンケン・ヌヤドは、子役ならがもすでに数多くの映画やテレビドラマに出演しており、日本で上映された作品ではブリランテ・メンドーサ監督の『Resbak(復讐)』がある。
 映画のタイトルともなっているリワイ/ダイを演じているグライザ・デ・カストロは、最近ではテレビシリーズの仕事が中心となっているが、自分が観たことのある作品だと、『タブー -禁断のウェディング-(Sukob)』『シャシャ・ザトゥーナ(ZsaZsa Zaturnnah Ze Moveeh)』に出ているようだ。とにかく、目力が強く、印象に残る女優さんだ。
 他に、ジョエル・サラチョ(Joel Saracho)、スー・プラド(Sue Prado)といった有名な俳優も出演している。

 本作は2018年の第14回シネマラヤ・インデペンデント・フィリム・フェスティバルの長編部門に出品され、観客賞を受賞している。