★澤村伊智『ばくうどの悪夢』角川書店

 澤村伊智『ばくうどの悪夢』角川書店を読了。
 兵庫県川西市にある総合病院の産科入院病棟で、悲惨きわまりない大量殺人事件が発生する。牛刀、出刃包丁を持った男が、妊婦、看護師らを片端から襲って殺害したのだ。
 それを契機に、少年、少女たちが悪夢を観るようになり、死んでいくようになる。寝たら、夢を見たら、死んでしまう。だが……。
 冒頭の描写がめちゃくちゃえぐい。スプラッター描写が強烈で、妊婦は絶対に読んではいけない。
 が、スプラッターな描写はその冒頭ぐらい(いや、本当はそうでもないんだけど)で、あとはもっと別種の怖さがジワリジワリと襲いかかってくる。夢の中で何者かに襲われ、あげくの果てに現実の世界で死んでしまうという設定の怖さ。寝たら死ぬと分かっていて、睡魔と闘わなければいけないという、絶対に勝ち目のない闘いを強いられてしまうのだ。
 しかも、なにが怖いといって、夢と現実の区別がまったくつかなくなっていくのが怖い。夢の中で必死に逃げて逃げて逃げ回って、なんとか悪夢の世界から逃げ出して「ああ、助かった」と思っても、助かったと思っている自分がまだ夢の中にいるのか、あるいは目覚めて現実の世界にいるのか、その区別がつかないのだ。そうでなくても、理屈の通じない悪夢の世界ってのは怖いのに。
 さらにこの小説は、途中で恐ろしいほどに様相を変える。夢と現実の二重構造を描きながら、さらに驚愕の二重構造が仕掛けられているのだ。いったい、この著者の頭の中はどうなっているのか。
 ネットにあるインタビューによると、「単純に『エルム街の悪夢』をやろうと思った」とのこと。自分は『エルム街の悪夢』を第1回東京国際ファンタスティック映画祭のオールナイト上映で観ており、ちょうど睡魔に襲われかけているタイミングで観たものだから、めちゃくちゃ怖かった。だけど、単純にあれを小説にしたところで、こんな怖い小説になるわけがない。そこに地方都市ならではの微妙な空気、夢にまつわる様々なネタ、土俗的な蘊蓄をたっぷりと盛り込み、極上のホラー小説に仕上げているのだ。
 本作は『ぼぎわんが、来る』に始まる比嘉姉妹シリーズなのだが、まったく予想だにしなかった終わり方をする。このシリーズでは最新作の『さえづちの眼』が未読なのだけれど、これを読むと本作のラストからどうなっていくのかが分かるのだろうか? 気になって仕方がないので、なるべく早く読まなければ。