【読書】デイヴィッド・マレル『蛍』早川書房

 デイヴィッド・マレル『蛍』早川書房を読了。
 『ランボー』の原作者として知られる著者が、15歳の息子が癌で亡くなったときの体験を小説にしたもので、ロバート・ラドラムスティーヴン・キングが絶賛している。なんとも不思議な小説で、ファンタジーの趣きさえある。
 最愛の息子が亡くなるまでの壮絶な闘病生活の描写は、痛ましいかぎり。子を持つ親としては、誰もが絶対に体験したくないと思うことだろう。その息子の死に際して、主人公(マレル本人)は非現実的な体験をする。ここまでは実際にマレル本人が体験したことをもとにした実話であるという。それを84歳になって死の床に伏せっているマレルが回想し、いつの間にか息子が死ぬ直前に転移し、息子の死を食い止めようと足掻く。ここは完全なフィクションだ。そして、どうしてこのような小説を書いたのかということを、小説の中で現実のマレルが語っている。そういう複層的な構造を持った小説なのだ。
 息子の死をなんとしてでも受け入れたくないというマレルの悲痛な叫びは痛いほどに伝わってくる。ただ、そこから先は、自分がどこまでこの小説を理解できたのか、いまいち自信は持てないのだった。