★マイクル・コナリー『正義の弧(上下)』講談社文庫

 マイクル・コナリー『正義の弧(上下)』講談社文庫を読了。
 本作の主人公はレネイ・バラードとハリー・ボッシュ。バラードが責任者となった未解決事件班に、ボランティアとしてボッシュが引き入れられる。未解決事件班の実績をあげるために、バラードは市会議員の妹が殺害された事件を優先的に扱う必要があったが、ボッシュは夫婦と子どもふたりが殺害されて砂漠に埋められた一家殺害事件にとりつかれていた。
 というわけで、ふたつの未解決事件が扱われているのだけれど、上巻の終わりあたりでメインに描かれていた片方の事件が解決してしまいそうな気配に「ええっ、こんなあっさり解決したら、下巻で描くことがなくなっちゃうじゃん」と思ってしまう。だが、もちろんそう簡単に解決するわけもなく、さらにはまったく予想だにしなかった展開に繋がっていく。
 相変わらずぐいぐいと読ませる。ほんのいっとき「こんなんボッシュシリーズじゃないよ」と思うような作品もあったけれど、本作はそうした不安なしに読むことができる。ボッシュはすでに70歳で、さすがに本格的なリタイアが近いはず(いろいろな意味で)。その代わり、ボッシュから仕込まれたバラードが主人公を引き受けていくのではないだろうか。いや、それよりもロス市警の刑事となっているボッシュの娘マディもちょこっと登場してきていて、いずれ彼女を主人公にした作品を読むことができるのかもしれない。

 訳者あとがきによると、これでとうとう邦訳が原作に追いついたとのこと。つまり、未訳長編はもう1本もないのだ。なんと素晴らしい。日本語に訳してもらえないことには読むことのできない英語無能力者としては、翻訳が出るのをじっと待つしかないので、こうしてコンスタントに日本語に訳してくれる訳者には本当に感謝しかない。
 次作はリンカーン弁護士シリーズとのこと。来年にはきっと読むことができるのだろう。楽しみだ。