★ジェレミー・ロビンソン『プロジェクト・ネメシス』角川文庫

 ジェレミー・ロビンソン『プロジェクト・ネメシス』角川文庫を読了。


 移植用の心臓を作り出すために、アラスカで発見された地球外生命体と思われる存在のDNAと、父親に殺害された少女マイゴのDNAを融合した細胞を培養して育てた生命体が怪獣ネメシスとなって暴れるという本格的な怪獣小説。たいていの怪獣映画では大惨事となる前に怪獣は撃退されるが、この小説では数百人もの人間が次々とこの怪獣に食べられ、さらには都市も破壊され数千人~数万人が命を失うという、なかなかに壮絶なパニック巨篇となっている。
 著者はいくつものペンネームを駆使して娯楽小説を量産している作家とのことで、アクション場面の描写なども手慣れたもので、迫力たっぷりだ。しかも、いかにもこの手の作家らしく、うざったい設定や描写などもなく、娯楽に徹した展開が実に心地よい。
 主人公たちのキャラクターがいささか薄っぺらく、ユーモアまじりの会話がやや浮いている気がしないでもないが、それも含めてこの手の小説の味わいというものだろう。
 なお、訳者あとがきを見ると、本作は長大なシリーズの第1作目に位置づけられ、この時点で第5作まで書かれているらしい。残念ながら、翻訳されているのは第2作目の『プロジェクト・マイゴ』までなのだけれど。そして、ハヤカワ文庫から出ている同作者の『怪物島』は、このシリーズの第0作と位置づけられている。『怪物島』に出てくるキャラクターが『プロジェクト・マイゴ』に登場し、第3話では『怪物島』から逃げ出した怪物とネメシスとの対決が描かれているのだとか。そんなこと言われても『怪物島』の詳細はすでに記憶から消え失せているし、第3作の翻訳も出ていないのだけれど。