★久永実木彦『わたしたちの怪獣』創元日本SF叢書


 久永実木彦『わたしたちの怪獣』創元日本SF叢書を読了。
 表題作の他、「ぴぴぴ・ぴっぴぴ」「夜の安らぎ」「『アタック・オブ・ザ・キラー・トマト』を観ながら」を収録。
「わたしたちの怪獣」
 家に帰ると妹が父親を殺害していて、なぜか東京には巨大な怪獣が現れて街を破壊している。わたしは、父親の死体を怪獣が暴れる東京に捨てるために、車で東京に向かうのだが。
 この表題作がやたらと評判がよく、それゆえにこの本を手にしたのだけれど、なぜか自分には4作のうちでいちばんピンと来なかった。たぶん、もっとストレートな怪獣小説を期待していたからなんだろう。著者の意図と違うことを期待していたこっちが悪いので、作品には申し訳ないと思う。
「ぴぴぴ・ぴっぴぴ」
 過去に飛んで災害被害者を救出する〈声かけ〉の業務についているぼくは、悲惨な事故を撮影した動画配信に魅せられていく。それは、〈声かけ〉が事故を防いでいない際に撮影された映像だった。だが、実際にはそのような事故は起きていない。〈声かけ〉が事故を防いでいるから、それは防がれた事故の映像なのだった。
 これも、いまひとつピンと来なかった。なぜピンと来ないのかはよく分からないのだけれど、自分の好みから微妙にはずれているということなのだろう。
「夜の安らぎ」
 この世に自分の居場所がないと感じているわたしは、あるとき「夜安」と名乗る男性に出会い、彼こそは吸血鬼であると確信し、自分も吸血鬼にして欲しいと頼み込む。だが、彼は自分が吸血鬼であるということをかたくなに否定し続ける。しかし、現実にどんどん追い詰められていったわたしにとっての唯一の救いは、人の世を去って吸血鬼となることだけだった。
 これは好み。主人公の気持ちが痛いほど伝わってくるし、吸血鬼と吸血鬼ハンターとのやりとりも実に楽しかった。ラストシーンがちょっと甘いけれど、それも含めて好みだったりする。
「『アタック・オブ・ザ・キラー・トマト』を観ながら」
 事情があってミニシアターに逃げ込んだぼくが遭遇したのは、Z級映画『アタック・オブ・ザ・キラー・トマト』の上映会だった。だが、上映機器の故障で上映は中断し、しかも映画館の外ではいつの間にか頭がトマトのように膨れあがったゾンビが増殖して人間を襲いまくっているのだった。
 これは大好き。登場人物たちがB級映画の蘊蓄を語りまくるところなんて、楽しい限り。『必殺!恐竜神父』というとてつもなくくだらない映画を観ていたのは、この小説を楽しむためだったのかとすら思ってしまう。マイナーな映画の話題に「あ、それも観てる」という優越感を刺激されてしまうがゆえの高評価なのかもしれないけれど、それはそれでいいのだと思う。