★霊媒は恋の始まり(love the way U lie)

霊媒は恋の始まり(love the way U lie)】2020年

 マニラの下町、キアポ教会の前で占いのテーブルを出しているステーシー(アレックス・ゴンザガ/Alex Gonzaga)は、ふだんは家族の面倒をみるのに時間をとられて自分の夢を見る余裕のない日々を送っていた。そんな彼女が出会ったのは、IT企業の社長をしている超イケメンのネイサン(ジーアン・リム/Xian Lim)だった。
 ネイサンにひと目ぼれしたステイシーは猛烈なアタックを開始するのだが、ネイサンは1年前に交通事故で亡くなった妻のことをずっと想い続けていて、ステイシーのことを見向きもしようとしない。しかし、亡くなった妻のサラ(カイリー・ベルゾーサ/Kylie Verzosa)は、いつまでも前に進めないでいる夫を新しい恋に導くために、幽霊となって戻ってくる。そして、ただひとりサラの声を聞くことのできるステイシーの手助けを始めるのだった。

 というわけで、じゃっかんファンタスティックな要素を持ったロマンティックコメディなのだけれど、残念ながら主人公たちの心の動きがいまいち説得力をもって描かれていないので、観ていてなんともはがゆいてならない。ネイサンが亡き妻への想いを乗り越えてステイシーとの新しい恋に乗り出すという、いちばん重要な過程に説得力がないので、共感することができないのだ。フィリピン映画は、一般的にそういった描写を得意とするスタッフが充実しているのだけれどなあ。
 また、フィリピン映画といったら異様なほど家族の描写を重要視し、家族との和解を感動的に描く作品が多いのだけれど、ステイシーに負担をかけていたことを反省するというエピソードの描写も、実に薄っぺらい。なんとも残念な作品となってしまっている。

 監督はRC・デロス・レイエス。トニ・ゴンザガとアレックス・ゴンザガの姉妹が主演する『Mary, Marry Me』で監督デビューを果たし、本作が監督2作目となる。そして、3作目の『アルター・ミー:心に耳を傾けて(Alter Me)』もNetflixで配信されているので、そのうち観なければ。

 主役のアレックス・ゴンザガは、『The Amazing Praybeyt Benjamin』『Buy Now, Die Later』『The Exorsis』などに出ている、コミカルな役柄の多い女優である。本作では脚本も担当している。
 そのアレックス・ゴンザガの姉も女優のトニ・ゴンザガで、本作のエンドロールにチラリと出演していたりするのだけれど、実は本作のエグゼクティヴ・プロデューサーを担当していたりもする。
 さらにはそのトニ・ゴンザガの夫で、有名な映画監督でもあるポール・ソリアノも本作のプロデューサーを務めている。
 姉と義兄がプロデュースして、本人が脚本を書いて主演しているという作品だったわけだ。

 もうひとりの主役のジーアン・リムは中華系フィリピン人で、ファッションモデルも務めるイケメン俳優だ。常に二枚目の役を演じているジーアン・リムだが、シーグリッド・アンドレア・ベルナルド監督の『それぞれの記憶(UnTrue)』では、従来のイメージを覆すサイコティックなキャラクターを演じていたりもしている。
 画面に登場するなり交通事故で亡くなってしまい、あとは幽霊として登場することとなったサラを演じているカイリー・ベルゾーサは、2016年のミス・インターナショナルで女王の座を射止めている美人女優だ。映画は2017年の『Ang Panday』がデビュー作で、その後、『Abay Babes』『Ulan』『Love Lockdown』などの作品に出演している。今回、彼女のことを調べてあれこれ動画や写真を漁ったところ、本作とはまったく異なるイメージのセクシーな映像が多く見つかった。
 あと、ステイシーの妹の役でキム・モリーナ(Kim Molina)も出ている。脇役で出ていても、とても目立つ女優だ。

 ちなみに本作は、クリスマスシーズンに開催されるメトロマニラ・フィルム・フェスティバルを夏にも開催することになったその第1回目にエントリーを予定されていた作品だった。しかし、コロナウィルスのためにフェスティバルは中止となり、映画館も閉鎖されてしまったので、結局はNetflixで配信されることになったという不運な作品でもある。

 

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