★東雅夫編『怪獣文藝の逆襲』角川書店

 東雅夫『怪獣文藝の逆襲』角川書店を読了。


 怪獣をテーマとした短編集とのことで、たいそう期待して手を出した。編者による「はじめに」を読むと「今度は戦争だ」とある。「本書は、より具体的・即物的な「生物」「生命体」としての怪獣と、サイズや能力、外見こそ大きく異なるとはいえ、同じ生物である人間との、死力を尽くした闘いを描き出すことに主眼が置かれている」とも書かれている。期待はいやが上にも高まる。
 が、いざ読んでみると、怪獣と人間が死力を尽くして闘う小説がほとんど収録されていない。それどころか、怪獣の登場しない短編すら収録されている。これは、さすがにガッカリだ。
 いちばん楽しめたのは大倉崇裕の「怪獣チェエイサー」。これには清く正しい巨大怪獣が登場し、その弱点を確認するための迫力満点の場面が描かれている。樋口真嗣の「怪獣二十六号」は、樋口真嗣が若い頃に書いた怪獣映画の企画書で、これはこれで面白いものの、映像に完成して初めて魅力の伝わるものかと思われる。山本弘の「魔都の怪神」には、口から炎を吐く巨大なトカゲ型怪獣が登場するのだが、残念ながらちょっと弱い。この程度で人間が勝ってしまったのでは、いささか物足りない。梶尾真治の「ブリラが来た夜」は、怪獣同士のバトルシーンがあるのだけれど、母親が唐突に怪獣に変貌するという設定がいまいちしっくりこない。太田忠司の「黒い虹」は、実際に怪獣が出てくるシーンが少なくて、人間と闘う場面の具体的な描写もなかった。有栖川有栖の「怪獣の夢」は、怪獣の夢を見続けた男の話。実際の怪獣は権力を手にした主人公そのものという話なので、こちらが期待したような怪獣小説じゃなかった。園子温の「孤独な怪獣」は、怪獣映画を作ることを夢見る、いまだ何者でもない若者の鬱屈した日々を描いた小説で、まったく怪獣小説というようなものではなかった。小中千昭の「トウキョウ・デスワーム」は、東京の地下に巨大なミミズがいるらしいという話は出てくるが、実際にその巨大ミミズが登場して暴れたりはしないので、これまた怪獣小説というようなものではなかった。井上伸一郎の「聖獣戦記 白い影」は、元寇の際に吹いた神風が実はキトラ古墳の壁画にある聖獣・白虎であったという話で、いちおう巨大怪獣が登場するものの、主人公たちが巨大怪獣に襲われるわけではないので、これも物足りない。
 というわけで、「今度は戦争だ」というような短編集とはまったくなっていない。書き下ろしでこうした短編集を出すのは、ひどく難しいのだろうなという印象に終わってしまった。