★樋口明雄『屋久島トワイライト』山と渓谷社

 樋口明雄『屋久島トワイライト』山と渓谷社を読了。

 帯に「山岳怪異譚」とあり、タイトルも『屋久島トワイライト』と柔らかめなので、つい屋久島の山で遭遇するちょっと不思議な怪異を描いた連作短編集と思い込んでいた。ところが、そんな生やさしい内容の小説ではなかった。まずは、連作短編集という思い込みがまったくの大はずれ。長編小説でありました。そして、「ちょっと不思議な怪異譚」どころか、屋久島全土に妖怪が襲いかかるというスケールのでかいホラー小説ではありませんか。最後なんか、邪神を復活させようともくろむ妖怪のラスボスを相手に、巫女の血を継ぐ少女が御神刀を手に挑むという、めちゃくちゃ派手なバトルが展開されてしまうのだ。予想とのギャップがあまりにも大きすぎて、あたふたとしてしまう。

 と、予想していた内容ではなかったのだけれど、相変わらず一気読みの面白さ。とりわけ、屋久島の自然描写などはさすがで、すっかりその場にいる気にさせられてしまう。そして、白髭の老人のあまりにも予想をくつがえすキャラクターに思わず笑ってしまう。ホラー小説なのに。

 ただし、自分としてはじんわりと怖くなってくるようなホラー小説が好きなので、『鬼火(逢魔ヶ刻)』のような雰囲気重視の作品を読んでみたい。そういうのは『「超」怖い話』あたりでやりつくしてしまったのかもしれないけれど。