★マーク・グリーニー『アーマード 生還不能(上下)』ハヤカワ文庫NV


 マーク・グリーニー『アーマード 生還不能(上下)』ハヤカワ文庫NVを読了。
 民間軍事会社の警備員(要するに傭兵のようなもの)のジョシュ・ダフィーは、ベイルートでの任務で左脚を失い、スーパーの警備員として鬱屈した日々を過ごしていた。だが、偶然出会ったかつての同僚のおかげで、民間軍事会社アーマード・セイントの一員としての職を得て、メキシコ西シエラマドレ山脈での麻薬カルテルと和平交渉をおこなう代表団の警護を行うことになる。
 ダフィーが乗り込んで行った西シエマドレ山脈は、複数の麻薬カルテルが勢力争いを続ける無法地帯であった。5台の装甲人員輸送車でその無法地帯の奥地に入り込むダフィーたちは、次々と予期せぬ襲撃を受けることとなる。だが、本当の危機は目的地についたところから始まるのだった。そこから、ダフィーたちの壮絶な脱出行が開始されるのだが……。

 いやあ、予想をはるかに上回る面白さだった。「グレイマン・シリーズ」のマーク・グリーニーの作品とはいえ、けっこういいペースで新刊が出ているし、その前のノンシリーズの『レッド・メダル作戦発動』が自分的にはいまいちだったので、いささか内容に不安があったのだけれど、そんな不安などあっさりと吹き飛ばしてくれた。絶体絶命すぎる危機また危機の連打のすさまじさよ。どうあったって、この危機を生き延びることなど不可能というような場面が、次から次へと描かれていくのである。とにかく、設定される危機が半端なさすぎる。
 グリーニーの最大の特徴は映像的な文章だと思うのだけれど、今回もまるで映画を観ているかのようにくっきりとその場面が見えてくる。その映像がどれもこれも壮絶なのだ。帯に「マイケル・ベイによる大型映画化進行中!」とあるけれど、すでに映画を観てしまった気分なのだ。
 また、登場するそれぞれのキャラクターが実にいい。ダフィーという非情になりきれない主人公のキャラもよければ、彼の部下になるクセのある面々のキャラもいいし、かつて陸軍将校だったダフィーの妻ニコールのキャラもいい。チームに同行する人類学者の女性などは、ずっとうざったいキャラを担当していたはずなのに、いつの間にかメンバーを救う重要なキャラになっているし、ダフィーたちを次々と危機に追いこんでいく敵のキャラすらも見事だったりする。
 これで面白くないわけがない。面白い冒険小説を読むたびに、これを読んだら内藤陳さんが喜んだだろうなとか、北上次郎さんがどう評価するだろうかとか、いつも思うのだけれど、本書はまさにそういう作品だった。