【読書】樋口明雄『紅い垂壁』徳間文庫

 樋口明雄『紅い垂壁』徳間文庫を読了。
 「南アルプス山岳救助隊K-9」の最新作である。巻末のリストをみると、本作がシリーズ13作目であるらしい。
 谷川岳での滑落事故でザイルに繋がれて断崖に宙づりとなった二人の男。二人を支えているのは、偶然にも岩の亀裂にはまり込んだカラビナのみ。このままでは二人とも落ちる、そう考えた一人の男はナイフを取り出すとザイルを切断し、自分ひとりだけが助かる道を選んだ。だが、その様子を遠くからカメラに収めていた男がいた。生き延びた男は、今度は写真を撮影した男から脅迫されることとなる。
 その生き延びた男が、いろいろあって婚約者を伴って北岳へとやってくる。しかし、その北岳ではテントに少年を置き去りにしたまま母親と母親の恋人の男とが行方不明になるという事件も発生していた。落石により大学生3名が滑落する事故も起きていた。
 並行して発生する複数の事件に対応するため、南アルプス山岳救助隊のメンバーたちが総出動して北岳を縦横無尽に駆け巡る。山岳救助犬メイを連れた夏実が、バロンを連れた静奈が、リキを連れた進藤が、遭難者を見つけるために北岳を駆ける。そして、夏実に襲いかかる危機また危機。
 ああ、面白かった。文庫324ページというのは、昨今では決して長い方ではないだろう。だけど、その324ページの中に、ぎっしりと娯楽小説の面白さが詰め込まれている。非常に密度の濃い小説なのだ。3時間を超えるインド映画も面白いけれど、90分にすべてをぶちこんだ香港映画だって捨てがたい。大作としての風格はなくても、90分間は絶対に楽しませるぞという強い意思を持って作られた香港映画のような小説、それが本作なのだ。
 そして、前作で登場してきたニック・ハロウェイという関西弁を喋る変な白人もしっかり定着しているし、今作では新たに山岳救助隊に新しいメンバーも加わってくる。そうしたシリーズ作品ならではの楽しさも味わえるのだ。
 しかし、笑ってしまった。
「それにしても、どうしていつも、“北岳”なんですかね。」
「それにしても、いろんなことが起きるな、この山。」
 はい、そうなんです。だって、そういうシリーズですもの(笑)