ミュリエル・スパーク『不思議な電話』東京新聞出版局を読了。
老女レッティのもとに謎の電話が繰り返しかかってくる。ただひとこと「死のさだめを忘れなさるな」とだけ告げて一方的に切ってしまうのだ。いったい誰がなんのために? やがてその電話は、彼女のまわりにいる別の老人たちにもかかってくるようになるのだが……。
物語は、その謎の電話をめぐって進行するのかと思いきや、けっしてそんなことはなく、さまざまな欲望の入り交じる老人たちの世界をグルグルと描いていく。次から次へとさまざまな思惑を抱えた老人たちが出てきて、読みだしてすぐに誰が誰やらわからなくなり、登場人物表を作りながら読んだのだけれど、それでも名前が出てくるたびに「えっと、これって誰だっけ?」と混乱した。登場人物表ぐらいつけておいてくれればいいのにと思ったが、読み終えた直後に裏表紙の折り返しに登場人物表があることに気がついてしまった。そんなところにつけるなよなあ。普通は、表紙の折り返しか、目次の後ろあたりにつけるものじゃないのか。読み終えて初めて気がつくような場所につけないでほしいよ。
いずれにしても、かなり読みにくい小説であった。登場人物のほとんどは70代、80代の老人で、中にはボケてきている人物もいたりする。とにかく、ちょっと油断すると、誰が誰だかよくわからなくなってしまうような小説なのだ。
そして、謎の電話については、受ける人間によって、若い男性の声だったり、年配の男性の声だったり、外国人の声だったりと一定しないのだけれど、その謎の追求は結局は放り出されてしまう。この小説にとって、その謎の解明は、どうでもいいことなのだ。
歳をとっても、結局、人は枯れることなく欲望を抱き続けるのであって、それぞれの欲望のスタイルを読んで楽しむ小説……なのかもしれないのだけれど、いまいちキャラの区別がつきにくかったので、自分にはさほど楽しむことはできなかった。
白水社から別の訳者の手になる『死を忘れるな』という邦題でも出されている。