【読書】西村寿行『蟹の目』徳間ノベルス

 西村寿行『蟹の目』徳間ノベルス西村寿行選集を読了。
 “草食獣の眸を持った男”と呼ばれる警察庁刑事局捜査一課・特別処理係長・警視・徳田左近を主人公とする「蟹の目」「海と女と少年」「疫病神」「甲斐犬と猿」を収録する。
 あいかわらず拉致された女性が性交奴隷となるという、西村寿行のお得意のパターンが並ぶ。西村寿行ほどの実力を持った小説家なら、もっと他のもっていきようもあるだろうに、なぜかこのパターンに対する執着がすごい。短篇だからまだいいのだけれど、長篇になるとその描写がしつこくなるので、いささか辟易させられる。
 それでいてこうして読んでしまうのは、それ以上の魅力が西村寿行の小説にあるからだろう。それがなにかというと、いささか難しいのだけれど。
 それにしても不思議なのは、知的と呼ぶにはほど遠い作品ばかりなのに、毎度毎度、なにかしら知らなかった情報が盛り込まれていたりする。乱作と呼ぶにふさわしいペースで書きまくっていたわりに、必ずそうしたネタが作品の中に盛り込まれているのだ。しかも、それが付け焼き刃的な知識ではなく、しっかり作者の中で消化された知識として作品に用いられているのである。
 西村寿行、なんとも不思議な作家だ。