【読書】西村寿行『地獄(下巻)』徳間ノベルス

 西村寿行『地獄(下巻)』徳間ノベルス西村寿行選集を読了。
 地獄は釈迦が民衆を騙すために作り上げた謀略で、死んで冥界に来た亡者は奴隷にされ、ある者は肥料に、ある者は食料に、そしてとりわけ美しい女性は性の奴隷にされている。隣接するキリスト冥界のたくらみによって冥界に送り込まれた西村寿行と担当編集者たちのヘナチョコ軍団は、そのことを知り、釈迦打倒のために立ち上がる。
 だが、その前に立ちふさがったのは、かつて釈迦と闘って破れ、いまは釈迦の腹心となっている閻魔大王なのであった!
 というわけで、西村寿行のとんでも小説の下巻である。これがSF専門誌である『SFアドベンチャー』に連載されたのであるから、徳間書店の懐の深さには恐れ入るしかない。『SFマガジン』だったら、絶対にこの小説が掲載されることはなかっただろう。まあ、『SFマガジン』に連載されたなら、賛否激突する論争が繰り広げられただろうから、それはそれで有意義なのかもしれないが。
 しかし、冥界を舞台に釈迦や閻魔大王に闘いを挑んでいくというとんでもない物語でありながら、その価値観の最上位には常にセックスがあるというのが、さすがは西村寿行だ。釈迦だろうが、閻魔大王だろうが、常に美貌の亡者を何人もはべらせて、四六時中セックスを楽しんでいるのである。西村寿行一行もスキさえあれば美人の亡者に手を出そうとするし、釈迦を倒したあかつきには性の楽園を作るぞと宣言したりして、その価値観のシンプルさにはある意味感心してしまう。
 巻末には、西村寿行と小説内に登場させられた実際の編集者たちによる座談会が収録されているのだけれど、誰も「オレをあんなキャラクターとして描いてひどすぎる!」と文句をつけたりせずに、大まじめに仏教論、宗教論をかわしている。いやいや、もっと素直に「このクソ寿行、おれをあんな風に描きやがって!」と糾弾した方が面白いのに。