★柴田哲孝『WOLF』角川文庫


 柴田哲孝『WOLF』角川文庫を読了。

 奥秩父に“山犬”と思われる大型動物の群れが現れ、釣り人や家畜に被害が発生する。だが、本当に“山犬”なのか? もしかしたら、絶滅したとされていた“オオカミ”なのではないだろうか?
 対策本部は、かつて奥秩父に“オオカミ”が生きている可能性を指摘する記事を書いたルポライターの有賀に声をかける。たまたまカナダの大学で森林科学の研究をしている有賀の息子の雄揮が帰国していたこともあり、有賀は雄揮とともに奥秩父にむかい、調査を開始する。
 やがて、その大型の犬型生物による被害は拡大していくのだが、観光による利益を優先する自治体トップによって有賀親子は排除され、招聘された御用学者によって単なる大型の犬による被害ということにされてしまうのだが……。

 「動物パニック小説の傑作」と聞き、さっそく手を出したのだけれど、いやはや面白かった。最大の謎は、はたしてその動物がニホンオオカミなのか?という点なのだけれど、かみ砕かれた骨に残された噛み跡とか、残された毛のDNA鑑定などから徐々に正体に迫っていく過程が、実に丁寧に描かれていて、非常に興味深かった。乱暴な小説だと、姿を観た瞬間に「おおっ、あれは幻のニホンオオカミ!」とかって、あっさり結論に飛びついたりするものだけれど、実際にはそんな簡単なものではない。あれこれ証拠を集め、仮説をたてて、それを検証していくという段取りが必要で、それがしっかり描かれている。このあたりが読み応えたっぷりなのだ。
 そして、動物パニック小説の最大の見せ場はといえば、動物が人間に襲いかかる場面の迫力であり、人間が知恵でもってその動物を追い詰めていく過程だったりするのだけれど、そうした見せ場もたっぷりと堪能できる。広大な奥秩父に潜む群れを人間はいかにして捕獲もしくは殲滅しようとするのか? はたしてその作戦が成功するのか? そして本当にその犯人は“ニホンオオカミ”なのか?
 久々に「動物パニック小説」を満喫することができた。西村寿行にはまって以来、面白い「動物パニック小説」あると聞けばかたはしから読みまくってはいるのだけれど、なかなかこのレベルの作品は出てこない。実に楽しい読書時間を過ごすことができた。