村山由佳『PRIZE-プライズ-』文藝春秋を読了。
出せばベストセラーの人気作家、天羽カイン。彼女は書店員の人気投票で選ばれる本屋大賞こそ受賞はしているものの、プロが選定する賞には縁がなかった。直木賞の候補にもなったが、受賞には至らず、それゆえに陰では無冠の女王とも呼ばれていた。どうしても認められたい。自分の書いたものを正当に評価されたい。なにがなんでも直木賞が欲しい!
本書は、承認欲求にとりつかれた人気作家天羽カインと、彼女を担当する編集者たちの、なんともリアルで生々しい物語である。つい先日、実際の編集者がいかによりよい作品を世に送り出すために闘っているかを微に入り細に入り描いた『文芸編集者、作家と闘う』というノンフィクションを読んだばかりなのだけれど、こちらはまったく同じ世界を描いたフィクションというわけだ。天羽カインという小説家のキャラクターが強烈なせいもあって、編集者の仕事の凄絶さがこれでもかこれでもかと描かれている。
これがもう、実に面白い。あまりの面白さに、一気に読み終えてしまった。もっとも、面白いだけではなく、ちょっと怖さもある小説だったのだけれど。
そういえば、『文芸編集者、作家と闘う』の著者の山田裕樹は北方謙三を世に送り出した編集者として知られているのだけれど、本書にも北方謙三をモデルとした南方権三という小説家が登場してくる。その南方権三の喋るセリフがいかにも北方謙三が口にしそうなセリフばかりで、思わず笑ってしまった。