【読書】天沢夏月『ヨンケイ!!』ポプラ社

 天沢夏月『ヨンケイ!!』ポプラ社を読了。
 そもそも生徒数が少ないために部員数が男性3人、女性1人しかいない大島の渚台高校陸上部に、4人目の男性部員が加わったことで400メートルリレー(ヨンケイ)に挑戦することになる。だが、それぞれに悩みを抱えていて、チームワークは最悪。お互いを信頼することで、はじめてタイムを縮めることが可能となる競技だというのに。目標は関東大会出場。そのためには東京支部予選を勝ち抜き、都大会を勝ち抜かなければならないのだけれど。
 『DOUBLES!! -ダブルス-』『17歳のラリー』といった作品で、テニスに挑む高校生の青春を瑞々しく描いた著者が、陸上競技を題材にした青春小説。いままで400メートルリレーのことなどほとんど知りもしなかったのだけれど、バトンタッチがうまくいけば4人の100メートル記録の合計よりも短いタイムが出せるのだということを、この作品で初めて知った。そして、理想のバトンの受け渡しのためには、バトンを渡す者、受け取る者が互いを信頼し、渡せるか渡せないかのギリギリのタイミングで受け取る者が全力でスタートしていなければならないのだということを、改めて認識させられた。
 小説は、ヨンケイに挑戦する4人ひとりひとりをメインに据えた4章から構成され、それぞれが抱える悩みをきっちり描いていく。この手のスポーツを題材にした小説が大好物なので、たっぷりと楽しませてもらった。ずっとライトノベル系の文庫を主戦場としてきた著者が、初めてポプラ社というあらたなフィールドを得て、さらに飛躍すべく書かれたであろう作品だ。
 そして、本書の次にポプラ社から出た作品が、刀鍛冶を題材とした『青の刀匠』で、まさに新境地ともいうべきこの本の帯には北上次郎さんの推薦文が載っていた。北上さんは書評でも『青の刀匠』を取りあげていて、そこにはこう書かれている。「天沢夏月は、「サマー・ランサー」で第19回電撃小説大賞(選考委員奨励賞)を受賞してデビューした作家だが、前作「ヨンケイ!!」は離島の高校陸上部を舞台にした佳作であった。本書はその「ヨンケイ!!」をしのぐ青春小説の傑作である。」。
 なので、まずは『ヨンケイ!!』を満喫して、そのうえで『青の刀匠』を読んでいただきたい。自分はたまたま読む順番が逆になってしまったけれど、お勧めの青春小説なのです。