【読書】今野敏『任侠書房』中公文庫

 今野敏『任侠書房』中公文庫を読了。
 昔気質の任侠団体・阿岐本組が、なぜかつぶれかけている出版社の経営に乗り出してくる。なぜかといえば、組長・阿岐本雄蔵には思いつきで行動を起こすというクセがあったからだ。かくして、代貸の日村は、組長の気まぐれに巻き込まれて相次ぐトラブルに立ち向かわざるをえなくなるのだった。
 今野敏は、実在の武術家に題材をとった一連のシリーズがあって、それを大喜びで読んでいるのだけれど、それが出てくるのは数年に一度。あとは、ひたすら警察小説を書いているという印象なのだけれど、そちらはほんの数冊しか読んだことがない。とにかく、どうすればこんなにたくさん書けるのだと呆れるほど、あとからあとから新作が出てくるので、さすがに作品の質が落ちてくるんじゃないのと思っていたのだけれど、本書を読むと、それがとんでもない勘違いであったと言わざるを得ない。面白いのだ。めっちゃ面白いのだ。しかも、中身が濃密なのだ。出版社のおかれた状況、雑誌編集者、単行本編集者の苦悩など、人気作家として身近に見ているせいもあるのだろうけれど、それらがしっかりと描かれている。
 さらには、自分の縄張り以外の場所にある出版社の経営に手を出すと、フロント企業と見なされてマル暴の刑事に目をつけられるは、そこを縄張りとする組織との軋轢も生じかねないは、本来の出版には関係のないトラブルまでがゾクゾクと押し寄せてくる。
 いやあ、面白かった。シリーズはこのあと『任侠学園』『任侠病院』『任侠浴場』『任侠シネマ』『任侠楽団』と続いていて、いやいや、ずっと1作目のテンションが続くわけないでしょと思ってしまうのだけれど、もしかすると今野敏なら続いているのかもしれない。