★盲剣楼

 シェー・ミャオ(謝苗)主演のアクション時代劇『盲剣楼』を観る。
 原題は「目中無人」 。2022年の作品だ。

 安史の乱のあと、世情は乱れ、正義は通用せず、力のある者の狼藉がまかり通る世の中となっていた。
 盲目の賞金稼ぎのイー(シェー・ミャオ)は、うまそうな酒の香りに誘われて通りすがりの結婚式に誘われるのだが、彼が酒でいい気分になって離れた場所で寝ている間に、結婚式をあげていた一族は突如襲ってきた悪党の一団によって惨殺されてしまう。犯人は役人でも手を出せない権力を持ったユーウェン家の者だった。
 イーは、ただひとり生き残った花嫁イェン(ガオ・ウェイワン)に頼まれて洛陽まで同行することになる。地元の役人が助けてくれないならば、より大きな街の役人に訴えるためだ。だが、イェンはユーウェンに捕らわれてしまう。
 イーの古くからの馴染みの女性チン(チャン・ディ)は、この件にかかわるなと必死に止めるのだが、イーはイェンを救うために敵地に乗り込んでいくのであった。

 言うまでもなく、勝新太郎の代表作である『座頭市』の設定を、中国に持ち込んだ作品である。おそらく、アクションシーンを撮る上で、『座頭市』のアクションをたっぷりと研究したのであろう。アクションシーンがめちゃくちゃいいのだ。徹頭徹尾、アクションシーンが素晴らしいのである。逆手に握った刀を振りながら、集団で襲いかかる敵のど真ん中を一瞬にして相手を切り倒しながら駆け抜けるシーンのスピード感! その派手なアクションのあとで、ピタッととまる演出のカッコ良さ。静から動、動から静の切り替えが本当に見事なのだ。剣による闘いだけではなく、瞬時にして相手の関節を逆に決め、拳や蹴りで相手を倒していく体術も見ごたえたっぷり。
 アクション演出が素晴らしいだけではなく、監督は映像にもめちゃくちゃ凝っていて、クライマックスの映像美にはとにかく驚かされた。なんだ、この逆光の映像美は! 中国にこんな映像に凝ったアクション映画を撮る監督がいたのか!
 『座頭市』の血を引き継いだ作品ではあるのだけれど、日本の任侠映画の血も色濃く引き継いでいると感じた。怒りを内に抑え込み、じっと我慢しつづける主人公。それが最後の最後に我慢ならずに、雪降る中、単身敵地に乗り込んでいく場面の既視感。高倉健主演で何度も観てきた場面だ。
 監督はヤン・ビンジア(杨秉佳)という方だそうで、日本の任侠映画をたっぷりと観てきている人に違いあるまい。
 ヤン・ビンジアは、シェー・ミャオ主演の『破神录』『血战虎门』『东北警察故事』といった作品の脚本を担当したあとで、本作で監督デビューした人であるらしい。本作のあとでやはりシェー・ミャオ主演の『狂虎危城』の脚本を担当し、そして今年になって本作の続篇を監督しているとのこと。徹頭徹尾、シェー・ミャオ主演の映画にかかわっている人なのだ。
 77分という短い尺なので、余計なシーンはまったくなし。それが実にいい。

 そこそこいい作品に出演しながらも、いまだ傑作と呼べる作品に出ていなかったシェー・ミャオなのだけれど、本作は傑作と呼んでいいだろう。とうとう、シェー・ミャオ主演映画で「これを観てくれ!」と胸を張って言える作品に出会えて、めちゃくちゃ嬉しいぞ。いずれ、続篇も日本で観られるようになるだろうか。すごく観てみたいぞ。