★少林寺 燃えよ洪拳

 少林寺 燃えよ洪拳(洪熙官之魔門妖女)』を観る。
 主人公は洪熙官。裏切り者によって少林寺が壊滅し、弟分の方世玉とともに師匠から託された「李自成の埋蔵金」のありかを示す地図を天地会に届けることとなる。だが、その前に立ち塞がるのは地図を狙った朝廷であり、その朝廷と手を組んだ白蓮教だった。

 中国製のクンフー映画ということで、はっきりいってまったく期待していなかった。中国製のクンフー映画は、そのほとんどがストーリーもアクション演出も生ぬるい作品が多く、香港映画で数多くの傑作を観てきた身としては、どうにも満足できない作品ばかりだったのだ。
 だが、主人公は洪熙官で、その相棒が方世玉である。この2人の名前を目にすると、すれっからしの香港映画ファンは、否が応でも血湧き肉躍ることとなる。なにせ、この2人を主人公とする数々の傑作をずっと見てきたのだから。ある時はジェット・リーが演じ、ある時はドニー・イェンが演じたキャラクターなのだ。この2人を主人公にして駄作など作ることは許されないのだ。
 というわけで、期待は高まるが、同時に不安も高まるという本作であるが、意外や意外、めちゃくちゃ充実したクンフー映画だったのである。
 ストーリーは色男の洪熙官をめぐる恋のさや当てなどトホホな部分もなきにしもあらずではある。だけど、香港映画の名作の数々だって似たようなものなので、ここは許してしまえる。それよりもアクション場面だ。本作は、アクション演出が非常に充実していたのである。久しぶりにアクションシーンの充実しているクンフー映画を観ることができて、めっちゃテンションがあがってしまったではないか。
 主人公の洪熙官は『新・少林寺伝説』のジェット・リーを意識しているのか、槍を武器に闘う。折りたたみ式の槍を常に持ち歩いていて、いざとなるとそれをさっと組み立てて闘うのだが、その槍アクションが非常に充実しているのだ。
 洪熙官を演じているグ・シャンウェイ(谷尚蔚)は実際に少林寺周辺にある武術道場で修業をして、梅花拳を学んだ人らしい。しかも、1997年から1998年にかけて北京伝統武術大会で優勝し、1998年から2002年まで5年連続でボクシング全国大会で優勝しているとのこと。つまり、しっかり体が動く人なのだ。
 方世玉を演じているのはヂャオ・ウェンヂュオ(趙文卓)。『格闘飛龍 方世玉』で悪役を演じ、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ4 天地覇王』で黄飛鴻を演じたチウ・マンチェク(趙文卓)と同姓同名なので実にややこしいが、まったくの別人である。ジェット・リーが『格闘飛龍 方世玉』で演じた方世玉はマザコンのやんちゃ坊主といったコミカルな側面のあるキャラクターだったが、本作の方世玉もどちらかというとコメディリリーフ的な位置づけで、広東十虎の1人といった貫禄はまったくない。雰囲気からいえば、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝/天地笑覇』のアラン・タムといったところか? あるいは、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地大乱』における梁寛(モク・シウチョン)といったところか?

 その2人に、次から次へと強烈な敵が襲いかかってくる。まずは、少林寺を裏切って一度は洪熙官に倒されるものの、白蓮教によって蘇った于飛。雰囲気は熊欣欣。これがめっちゃ強い。洪熙官との一騎打ちは実に見応えあり。
 そして、朝廷より送り込まれてきた大内侍衛頭領の風軍。こいつは宦官なのかな? 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地大乱』におけるドニー・イェンのような位置づけのキャラクターなので、これまた当然強い。
 さらには天地会の裏切り者までがふたりに襲いかかり、クライマックスに待ち構えているのが白蓮教の聖女となる。この白蓮教も『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地大乱』でお馴染みの存在なので、クンフー映画ファンはここでまた嬉しくなってしまうのである。

 監督のチャン・ディーサイは、『霊幻道士XII 英叔復活だョ!全員集合(一眉先生)』で主演とアクション演出を担当していた人とのこと。

 香港クンフー映画を楽しんできた人なら、観て損のない作品と言っていいだろう。いやあ、時としてこういう作品にも出会えるのだから、中国クンフー映画もあなどれない。