藤純子引退記念映画『関東緋桜一家』を観る。
明治末年の東京柳橋。柳橋の縄張りを狙う鬼鉄一家が、御法度の賭場を開き、あこぎなやり口で徐々に勢力を伸ばしつつあった。柳橋を守る鳶「に組」は、なんとか鬼鉄一家をなだめようとするのだが、「に組」の福組頭・河岸政は鬼鉄一家によって暗殺されてしまう。その河岸政の後を継いだのが、娘の鶴次(藤純子)だった。鶴次には、かつて組頭・吉五郎(片岡千恵蔵)の息子の信三(高倉健)という恋人がいたが、鶴次にカランできたヤクザを刺殺してしまったことで、信三は行方をくらましていた。鶴次はその信三が帰ってくると信じ、それまでということで父の跡目を継いだのだった。
日本橋界隈を仕切っていたのは、新堀辰之助(嵐寛寿郎)率いる新堀一家だった。だが、辰之助が病死したことから、新堀一家は鬼鉄一家との結びつきを強めていく。その新堀一家に客人として身を寄せていたのが、信三ともつながりのある旅清(鶴田浩二)だった。旅清は、渡世人としての義理から新堀一家に道理を説きながらも、一家を守ろうとする。
そして、ひっそりと柳橋に帰ってきていた信三は、影ながら鶴次たちを守ろうとするのだが……。
いやあ、めちゃくちゃ面白かった。なんの予備知識もなく、何気なく借りてきた映画だったのだけれど、あまりの面白さにびっくりしてしまった。
登場人物の豪華さにも目をみはってしまった。藤純子、高倉健、鶴田浩二、菅原文太、若山富三郎、嵐寛寿郎、片岡千恵蔵、藤山寛美、笠置シヅ子、山城新伍、長門裕之、金子信雄、南田洋子、小暮実千代などなど、日本映画に疎い自分でも知っている名前がズラリと並んでいる。そうそう、鬼鉄一家の若者の中に川谷拓三の姿もあったぞ。
それだけのスターをズラリと揃えながら、それぞれにしっかり見せ場を作る作劇のみごとさよ。スターがスターとしての輝きをしっかりと放っている見事な映画なのだ。鶴田浩二が画面に現れた瞬間なんて、ただそこにいるだけでものすごい存在感で、目を惹きつけられる。そして、主演の藤純子がすごくすごくすごくいい。ちょっとしたまなざしだけで、観客を悩殺してしまう色気が実に実にたまらない。高倉健は、あくまでも高倉健で、いつもの高倉健なんだけど、やっぱりかっこいい。仁義を切るシーンなんて、お約束のシーンなのに、めっちゃかっこいい。
もちろん、最後は我慢に我慢を重ねた鶴田浩二、藤純子、高倉健が鬼鉄一家に乗り込んでいくというお約束の展開。素晴らしい。
そして最後に藤純子が「皆さん、お世話になりました」と、カメラに向かって頭を下げて去って行くという、まさに引退記念映画にふさわしいシーンまで用意されているという素晴らしさ。
いやあ、娯楽映画はこうでなくちゃいけない。
監督はマキノ雅弘。マキノ雅弘にとっても、本作が劇場映画の引退作となったとのこと。この手のジャンルには疎くて、どういう作品があるのかほとんど把握していないのだけれど、もっともっと観たくなるぞ。