【読書】今村昌弘『屍人荘の殺人』創元推理文庫

 今村昌弘『屍人荘の殺人』創元推理文庫を読了。
 まず最初に白状しておくが、自分はいわゆる謎解きをメインとする本格ミステリが苦手だ。読んでいる途中でなにがなんだかよく分からなくなって、どうでもよくなってしまうことが頻繁にあるからだ。だから、本書を読もうとして、しょっぱなに「紫湛荘見取り図」なるものが出てきて「ああっ、これは自分には向いていない!」と思ってしまった。こういう見取り図が出てくるからには、ごちゃごちゃしたパズルを解くようなタイプのミステリに違いあるまい。絶対に途中でわけがわからなくなって、犯人なんてどうでもいい!と思ってしまうに違いあるまい。
 大学のミステリ愛好会の会長である明智恭介と、たったひとりの会員である葉村譲のふたりは、同じ大学に通う剣崎比留子に誘われて、映画研究会の夏合宿に参加することになる。会長の明智恭介は自称名探偵なのだけれど、剣崎比留子の方は実際に警察の捜査に協力した経験が何度もある名探偵であった。
 この導入部で、ライトノベルっぽい、若い読者に好まれそうな文体とキャラクターだな、なんて思ってしまう。とにかく読みやすい。スラスラと読めてしまう。
 そして、合宿に向かう過程で一気に登場人物が増える。いつもならここで誰が誰だか区別がつかなくなってしまうのだけれど、本作はわざとらしいまでにそれぞれのキャラクターにふさわしい名前がつけられているので、とっても分かりやすい。
 しかし、軽いノリの作品で読みやすいじゃん、などと思っていた自分は、この作品を明らかにみくびっていたということが判明してしまう。この先、登場人物たちはとんでもない事態にまきこまれていくのだけれど、そのとんでもない事態というのが、予想のはるか上をいっていたのだ。なんともとんでもない設定のミステリだったのだ。すでに刊行から7年がたっていて、映画化もされているので、そのとんでもない設定に触れてもいいのかもしれないけれど、未読の人もいるだろうから、あえてそこには触れない。とにかく、あるとんでもない状況によって、主人公たちは紫湛荘というペンションに閉じこめられ、そこで連続殺人が発生するのである。
 第1の殺人の真相には、ドギモを抜かれた。きわめてシンプルな真相で、パズルを解くようで分かりにくいとか、そんな要素は皆無。それでいてビックリさせられる真相なのだ。
 第2、第3の殺人の真相の方はさすがにそこまでシンプルではない。本格ミステリの読者としての適性を致命的なまでに欠いている自分には、「えーっ、そんなこみいったことをする?」とか「とっさにそんなことを思いつく?」とか、なんともヤボな感想を持ってしまったのだけれど、本格ミステリファンにしてみれば、お見事!と快哉を叫びたくなる展開ではなかっただろうか。
 いずれにしても、犯人が誰かとか、トリックがどうだったとか、自分はそういうことにあまり興味が持てないのだけれど、それでも十分以上に楽しめる、実にとんでもない作品でありました。