【読書】ジョー・R・ランズデール『ロスト・エコー』ハヤカワ文庫HM

 ジョー・R・ランズデール『ロスト・エコー』ハヤカワ文庫HMを読了。
 子どもの頃の高熱が原因で、ハリーは不思議な能力を持つことになる。過去に暴力や恐怖に関係した物が発する音に触れると、その過去の出来事が見えてしまうのである。殺人事件のあった車のドアを閉める音で、その殺人事件の光景が見えてしまうのだ。その能力をコントロールすることのできないハリーは、不意に襲いかかってくるその光景を避けるために安全とわかっている道しか歩けず、友人の家のトイレに入ることもできなかった。その能力を鈍らせるため、酒浸りの日々となったハリーだが、ある日、同じく酒浸りの武術の達人であるタッドと出会い、ふたりで再生の道を辿ろうとする。
 だが、初恋の女性と再会し、彼女の父親の死の真相を探ろうとすることで、とんでもない事態に陥ってしまうのだった。
 ちょっと初期のディーン・クーンツを思わせる設定だけれど、ランズデールであるからにはより猥雑な空気が漂っている。そして、それぞれのキャラクターが生々しい。悪いヤツはいかにも悪いヤツだし、主人公は決して高潔な魂の持ち主ではないし、びびるべき場面ではしっかりとびびる。
 そして、そこかしこに顔を出すひねくれたユーモア。ハップ・コリンズ&レナード・パインのシリーズほど冗舌ではないにしても、このなんともひねくれたユーモアのセンスが独特の雰囲気を生み出している。これぞ、ランズデール!
 いよいよ未読の翻訳作品が残り少なくなってきてしまったが、もっと日本でも評価されていい作家じゃないのかな。