★クラム・ラーマン『ロスト・アイデンティティ』ハーパーBOOKS

 クラム・ラーマン『ロスト・アイデンティティ』ハーパーBOOKSを読了。


 週に一度だけとはいえ、モスクに通っているムスリムでありながら、麻薬の売人でもあるロンドンの若者ジェイ。そんな彼にMI5が目をつける。イスラム過激派によるテロを未然に防ぐため、過激派の情報を得るための潜入捜査員とさせるために。
 テロによる無差別殺人を嫌悪しながらも、ムスリムに対する差別、迫害にさらされたきたジェイは、相反する感情に悩まされながらも、過激派組織に潜入する。だが、そこで彼を待ち受けていたのは、予想もしていなかった過酷な運命であった……。

 ムスリムを主人公とするミステリを読んだのは、おそらく本書が初めてだろう。まずは、その目新しさゆえに興味深く読まされた。潜入捜査官テーマの作品でありながら、潜入する組織が同胞であるがゆえの、主人公の心の葛藤というのも、グイグイ読ませる大きな要因ともなっている。しかも、主人公をはじめとする登場人物のキャラクターがみなしっかりと活きているので、説得力もある。
 つまり、これはめちゃくちゃ面白い小説だということだ。力強くお勧めしたい。
 もっとも、クライマックスの展開だけは、いささか不満ではある。ネタバレになるので、どう不満なのかは書けないのだけれど。