★LOVE AT FIRST STREAM

 フィリピン映画『LOVE AT FIRST STREAM(2021年)』を観る。

 ヴィルマ(ダニエラ・ストランナー/Daniela Stranner)は、人気ストリーマーとなって大金を稼いでマンションを買って家を出るのが夢。彼女の母親は、大学にも進学せず、就職もせず、日々動画配信に精を出している娘に、もっと地に足をつけた生き方をしろと口を酸っぱくして言い聞かせているのだけれど、ヴィルマはまったく母親の言うことを聞こうとはしない。
 彼女の家には、従姉妹のメグ(カオリ・オイヌマ/Kaori Oinuma)も同居していて、ずっとヴィルマの応援をしている。だけど、堅実な彼女は真面目に大学のネット配信での授業を受けていて、近々インターンシップシンガポールに行くための努力を続けていた。
 ヴィルマは動画配信での「いいね」を稼ぐために、隣りに住むトゥペ(アンソニー・ジェニングス/Anthony Jennings)を巻き込んだ動画の作成に乗り出す。実はトゥペはかつてヴィルマに一方的にふられた過去があるのだけれど、人のいいトゥペはいやいやながらもヴィルマに加勢する。ところが、メグの同級生のジノ(ジェレマイア・リスボ/Jeremiah Lisbo)と一緒にいる動画が話題になって再生数がいっきに伸びたことから、ヴィルマはメグに頼み込んでジノを説得してもらい、ジノと恋人同士という設定での動画配信にも乗り出す。
 さらには、「カップル・ゴールズ・キャンペーン」という、恋人同士の動画配信の人気投票での優勝賞金を狙って、ヴィルマのネット配信は加熱していく。だけど……。

 ストリーマーというのは、日本でいえばユーチューバーのようなものだろう。動画配信で成功して有名になり高収を得たいというのは、日本もフィリピンも一緒のようだ。
 ただし、恋人同士で動画を配信して、それが人気になるというのは、日本ではいささか分かりにくいかもしれない。フィリピン芸能界には、若いカップルをラブチームとして売り出し、ファンもその2人をカップルとして応援するという習慣が定着していて、ラブチームの人気投票などもよく行われていたりする。若いアイドルに「恋愛禁止」などというルールを課す日本の芸能界とは大違いなのだ。

 かくしてヴィルマはジノを相手の嘘のラブチームで人気ランキングをあげていくのだけれど、ライバルによってその嘘が暴露されてしまう。しかも、実はジノが好意を寄せている相手はメグだったということが判明してしまう。そのことでヴィルマはいままで彼女に手を貸していたジノやメグを罵倒し、さらにはさんざん利用してきたトゥペに対しても傷つける言葉を口にして、孤立していってしまう。
 もちろん、最後は涙涙のハッピーエンドになるのだけれど、その演出が実にみごとで、ありきたりの展開でありながら思わずグッときてしまう。フィリピン映画お約束の家族の和解のシーンにも、ジワーッときてしまう。

 監督はフィリピンでトップクラスのヒットメーカーのキャシー・ガルシア・モリーナ(Cathy Garcia-Molina)。コロナウィルスで映画館が閉鎖されている間に作成された作品ゆえに、それほど話題にならなかったのは残念だけれど、若いスターを起用したラブコメとして充分に楽しめる作品に仕上がっている。

 主役のヴィルマを演じているのは本作が映画デビューとなるドイツ系フィリピン人のダニエラ・ストランナー。「スター・マジック・サークル」という新人発掘イベントで見いだされ、2020年にゴールデンタイムに放送された「Make It With You」というソープオペラに出演し、その翌年に本作で映画デビューとなっている。
 実に活き活きとした表情が魅力的な女優で、これからが楽しみなのだけれど、いまのところ映画出演作は本作のみとなっている。
 一方のメグを演じているオイヌマ・カオリはというと、日本人の父とフィリピン人の母を持ち、名古屋生まれで4歳まで日本で過ごしていたらしい。父親似なのか、みごとなまでの日本人の顔立ちで、フィリピン人の中にまじるといささか地味な顔つきなのだけれど、そこがまたにぎやかな表情のヴィルマといい対比になっている。テレビシリーズ「He's Into Her」と、その映画化の『He's Into Her:The Movie Cut』で主人公の友人役を演じて人気が出て、本作の出演につながったのだろう。
 トゥペを演じているアンソニー・ジェニングスは、2019年の『Hello, Love, Goodbye』が映画デビューで、本作が長編映画は3本目となる。テレビシリーズ「Make It With You」ではダニエラ・ストランナーと共演もしている。チリチリ頭の実に人のよさそうな役が印象的だ。
 ジノを演じているジェレマイア・リスボは、「He's Into Her」のドニー・パンギリナンにちょっと雰囲気の似ている正統派のイケメン俳優だ。実は、オイヌマ・カオリの出ている「He's Into Her」にも主要な役で出ていたりもするのだけれど。また、「He's Into Her」で大人気となったラブチーム、ドニー・パンギリナン&ベル・マリアノ主演の『Love Is Color Blind』にも準主役級で出演している。

 なお、本作は新型コロナウィルスが猛威をふるっている時期に撮影されたため、冒頭には「セーフティ・ガイドラインを守って撮影されています」というアナウンスが出る。映画そのものも、新型コロナウイルスが流行しているという状況が背景にあり、大学の授業はインターネットを通じて行われているし、登場人物も場面に応じてマスクを着用している。そういう状況だからこそ、ストリーマーという職業が題材に選ばれやすいのかもしれない。