【読書】ハモンド・イネス『怒りの山』ハヤカワ文庫NV

 ハモンド・イネス『怒りの山』ハヤカワ文庫NVを読了。
 第二次大戦中、ナチスの捕虜となり、麻酔を使わずに足を切断されるという拷問を受けた元パイロットのイギリス人ファレル。仕事で訪れたチェコで戦時中の友人のトゥチェックに会うのだが、その時から謎めいた事件に巻き込まれていく。彼の行く先々に戦時中にかかわりのあった人間が次々と現れ、ついにはナチスの亡霊までが彼の前に立ちふさがる。運命に導かれるかのようにイタリアに移動するファレルだが、そこでも戦時中の悪夢が彼にまとわりつく。そして、ベスビオ火山の麓の村に関係者全員が顔を揃えた時、噴火した火山による溶岩流が一同に襲いかかるのであった。
 どうも主人公の行動に一貫性がなく、怯えて酒に逃げたり、自暴自棄になってすべてを放り出そうとしたり、それでいて積極的に事態に取り組もうとしたり、いまいち共感しにくい。ほんの数行で考えがコロコロかわってしまって、「行くのかい? 行かないのかい? どっちなんだい?」と突っ込みたくなる。また、出会ったばかりの他人に誘われて旅行に出てみたり、ちょっと色っぽい女性が出てくると簡単によろめいてみたり、なにを考えているのかよく分からなかったりもする。冒険小説の主人公としては、さすがにこれはないだろうと思ってしまう。
 その他の登場人物についても、いまいち行動やセリフに説得力がなく、ハモンド・イネスってしょせんはその程度の作家なんだろうかと思ってしまった。
 過去の読書記録をチェックしてみると、1979年に『大氷原の嵐』、1980年に『メリー・ディア号の遭難』、1998年に『孤独なスキーヤー』、2002年に『密輸鉱山』を読んでいるらしいのだけれど、まるっきり印象に残っていない。『密輸鉱山』を読んだときの感想があったので、その一部を引っ張ってみるとこんなことを書いていた。
「非常にシンプルなストーリーなのだが、なんだかろくに盛り上がらないまま淡々と読んで、いつの間にか最終ページに辿り着いていたという感じ。キャラクターの書き込みがもっとしっかりしていたらもう少しのめりこめたのかもしれないけれど。」
 なんだ、前に読んだ時も似たような感想を書いてるじゃん。