★樋口明雄『さよならの夏』徳間文庫

 樋口明雄『さよならの夏』徳間文庫を読了。
 お馴染み「南アルプス山岳救助隊K-9」の最新刊である。が、これは評価が分かれそうだ。
 滑落して怪我をした女性を救難ヘリに託した南アルプス山岳救助隊の夏実は、その直後に頭上に輝くオーロラを見たかと思うと、記憶を失っている男性に遭遇する。男性は静岡県赤石岳に登っていたはずなのに、なぜか気がつくと北岳にいたのだという。夏実が見たオーロラはなんなのか? なぜぜんぜん違う山に登っていた男性が記憶を失って北岳にいたのか?
 一方、甲府市内では、若い女性が両目を刺されて殺害されるという連続殺人事件が発生していた。犯人は誰なのか? なぜ両目を刺し貫かれて殺されたのか?

 物語は、連続殺人事件を追う甲府署の刑事たちと、北岳で発見された男性の妹を中心に進行していくので、なかなか北岳が舞台にはならないし、南アルプス山岳救助隊の物語にもなっていかない。シリーズ作品とはいえ、パターン化、マンネリを嫌う著者ならではの新しい挑戦なのだろう。しかし、それが成功しているかというと、自分的にはやや微妙だった。自分がこのシリーズに期待しているものと、いささか方向性が違っていたという勝手な理由によるものなのだけれど、やはりもっと南アルプス山岳救助隊の活躍を読みたいのだ。メイやバロンの活躍をもっともっと読みたいのだ。そろそろリキだって活躍してくれてもいいのではないだろうか。そう思ってしまうのだ。
 それと、帯にある「山岳ミステリー」として読んでしまったので、結末まできて「それはないだろう」と思ってしまう。途中に出てくるいくつかの不可思議な謎に「それって、どういう合理的な解決が待っているのだろう?」と期待半分、不安半分で読んでいて、不安の方があたってしまったのだから。
 もちろん、相変わらずのリーダビリティの高さで、グイグイと読ませられてしまう。ニック・ハロウェイという、なかなか個性的で楽しい新しいキャラクターも登場してきている(主な登場人物一覧に彼が入っていない!)。魅力的な読み物であることは間違いない。だけど、自分が読みたい「南アルプス山岳救助隊K-9」はこれじゃないんだという思いを拭いされない。ワンパターンでもいいから、いつもの「南アルプス山岳救助隊K-9」を読みたいと思ってしまうのだった。