【読書】ドン・ベントレー『シリア・サンクション』ハヤカワ文庫NV

 ドン・ベントレー『シリア・サンクション』ハヤカワ文庫NVを読了。
 シリアのテロリスト集団が、新型化学兵器を開発したという情報を得たCIAは、準軍事作戦チームを送り込むが作戦は失敗し、ひとりが人質となってしまう。それを救出すべく、国防情報局(DIA)のマット・ドレイクがシリアに送り込まれる。だが、はなから困難極まりなかった救出作戦は、次々と不運に襲われ、どんどん困難の度合いを増していく。さらには、アメリカ政府すらドレイクの救出作戦をはばむ障害となって立ち塞がってしまう。ドレイク本人もどんどんズタボロになっていき、救出作戦はほとんど不可能という状況に追いこまれ、人質の処刑時間が迫っていく!
 この手の冒険小説は、主人公をどこまで窮地に追い込んでいくか、そしてその窮地をいかにして主人公が乗り越えていくかが大きな魅力となるのだけれど、本作の主人公の扱いはなかなかにむごい。こんな状態になって、ミッションを遂行するなんて完全に無理じゃん!という、とんでもない状況にまで追いこむのである。これこそ冒険小説の醍醐味ってやつですね。
 ただ、ひとつ文句をつけるなら、本作だけでしっかり完結する物語にしてほしかった。主人公を追い詰める謎の敵役が登場するのだけれど、続編に引っぱるため逃げ延びてしまうのだ。続編は続編でまた別の敵を設定すればいいので、ここはきっちりカタをつけてほしかった。仕方ないので、続編の『イラク・コネクション』も読まなければ。
 ちなみに著者は、トム・クランシー名義のジャック・ライアン・ジュニアシリーズの『奪還のベイルート』という翻訳も出ている。グレイマン・シリーズのマーク・グリーニーも同じくジャック・ライアンシリーズを書いているので、これからの冒険小説の有力な書き手は、みなトム・クランシー名義の作品を書かされるのかもしれない。