★スーザン・プライス『500年のトンネル(上下)』創元推理文庫



 スーザン・プライス『500年のトンネル(上下)』創元推理文庫を読了。

 ある企業が21世紀と16世紀のイギリスを繋ぐタイムトンネルを開発し、16世紀の地下資源を採掘したり、観光地化したりという計画を立ち上げる。だが、16世紀のその地域にはスターカームという素朴にして粗暴な一族がいて、なかなか計画は思うように進まない。そこで、アンドリアという女性人類学者が送り込まれるのだが、アンドリアはその一族の暮らしぶりに魅了され、しかも族長の息子ピーアと恋に落ちてしまう。
 一方、タイムトンネル計画からなんとしてでも利益をあげなければならないという企業の圧力により、次第に企業とスターカームとの間に軋轢が生まれてくる。両者の間にはさまざまな駆け引きがかわされ、ついには殺戮にいたる闘いに突き進んでしまう。スターカームにとって、掠奪にしても殺人にしても、きわめてハードルの低い行為だったのだ。
 その間に立たされたアンドリアは、なんとか事態を解決しようと試みるのだが、対立はどんどんエスカレートしていってしまう。

 スターカームという一族の暮らしが、実にリアルに魅力的に描かれている。野蛮ではあっても、その暮らしぶりは実に魅力的なのだ。アンドリアもそこに魅了されていくのだけれど、それでもあくまでも21世紀の人間なので、16世紀をそのまま受け入れることはできない。そのジレンマがこの小説の大きなテーマとなっている。
 また、タイムトンネルというSF的なギミックを扱いながらも、野蛮な一族の闘いを描いたヒロイックファンタジーといった趣きもあり、さらには現代人と古代人とのバトルやスリリングな逃避行を描いた冒険小説的な魅力もあり、そして時を超えた恋愛を描くロマンス小説としてもたっぷり読ませてくれる。こういったいくつもの要素が見事に融合した名作といっていいだろう。
 時を超えた恋愛がどのような結末を迎えるのか、最後まで目を離せない。いやいや、これは面白かったぞ。
 続編も翻訳されているので、さっさと読まなければ。