★ハンナ・ティンティ『父を撃った12の銃弾』文藝春秋

 ハンナ・ティンティ『父を撃った12の銃弾』文藝春秋を読了。


 なんと素晴らしい犯罪小説であろうか。身体中に銃弾の痕のある父親と、その父に愛されて育った娘の物語だ。現在のパートと過去のパートとが交互に語られ、その過去のパートでは父の体に刻まれた銃痕の物語が語られていく。ひとつひとつの銃痕の物語を通して父の苛烈な人生、母との出会い、娘の誕生などが描かれていく。現在のパートでは、長い旅路のはてにひとつの町に定住することを選んだ父と娘の物語が語られていく。やがて、過去のパートが現在のパートに追いつき、12番目の銃弾が父の体に突き刺さる。
 父を主人公にした青春小説であり、娘を主人公にした青春小説であり、なおかつ犯罪に生きる男を描いた犯罪小説であり、冒険活劇小説ともなっている。血なまぐさい小説でありながら、抒情的な美しさすら持った小説。
 実に素晴らしい小説だった。