【読書】ダフネ・デュ・モーリア『レイチェル』創元推理文庫

 ダフネ・デュ・モーリア『レイチェル』創元推理文庫を読了。
 亡き父に代わりわたしを育ててくれた、兄とも父とも慕っていた従兄のアンブローズが、旅先のイタリアでわたしの遠縁にあたるレイチェルという女性と結婚したと連絡が入る。すぐにアンブローズが帰国するものと思っていたのだが、イタリアでの滞在は長引き、やがて体調が優れないという手紙が届いたかと思うと、「すぐ来てくれ。ついに彼女にやられた。私をさいなむあの女、レイチェルに。」という手紙が届く。わたしはすぐにイタリアに旅立ったが、ときすでに遅く、アンブローズは亡くなっていた。
 わたしはレイチェルという見ず知らずの女性に対する憎しみの念を募らせるのだが、やがてわたしの目の前に現れたレイチェルに心を奪われていくのだった。
 このレイチェルという女性が非常に魅力的に描かれている。主人公のフィリップが相続したコーンウォールの広大な領地に現れたレイチェルは、あっという間にフィリップを魅了し、領地で働く領民たちをも味方につけてしまう。その過程がじっくりと描かれていき、読みながら「いや、この女はいろいろとたくらんでいる悪女なのだ」と思う一方で「いやいや、本当は見かけ通りの魅力的な女性なのではないか」と、心は揺れ続ける。
 フィリップは広大な領地、莫大な財産を相続しているが、遺言書の定めにより25歳になるまで財産を自由にはできないことになっている。もうすぐその誕生日がくるフィリップは、正式に財産を相続したらレイチェルと結婚して、その財産をすべてレイチェルに贈与しようと計画しはじめるのだが……。
 フィリップのことを慕うルイーズという女性から「アシュリー夫人(レイチェル)ほどの女性ともなれば、あなたのような若造くらい難なく手玉に取れるんだってことよ」と言うセリフが飛び出し、まさにこれが真相であると思えてくる。あるいは、フィリップの財産を管理し、フィリップの相談役ともなっている名付け親のケンダルから「世の中にはな、フィリップ、本人にはなんの咎もないのに、災厄をもたらす女というのもいるんだよ。そういう女たちは、触れたものをことごとく不幸にしてしまうんだ」と忠告される。あるいは、こちらが真相なのか。だが、恋で盲目となった若者に、そういう言葉が届くはずもない。
 中盤を過ぎ、レイチェルを告発するアンブローズの手紙が出てきたあたりから、はたしてどうなってしまうのか、本当にレイチェルは悪女なのか、真相が知りたくてページをめくる手がとまらなくなってしまう。派手な展開があるわけでもないのに、ぐいぐいと読まされてしまうのだ。すごいな、デュ・モーリア
 実は、デュ・モーリアの代表作である『レベッカ』をいまだ読んでいない。これは、読まないわけにはいくまい。