【読書】池央耿『翻訳万華鏡』河出文庫

 池央耿『翻訳万華鏡』河出文庫を読了。
 ハモンド・イネスの諸作、J・P・ホーガンの『星を継ぐもの』などなど、多くの冒険小説、SF、ミステリーでお世話になった翻訳家・池央耿による著書。てっきり、翻訳業界の裏話や苦労話が読めるものと期待して手を出したのだけれど、残念ながらそういう内容の本ではなかった。冒頭こそ、翻訳家となったいきさつなどが語られ、僕の大好きなネヴィル・シュートの名前が頻繁に出てくることもあって喜んで読んでいたが、だんだん自分が翻訳を手がけた作品や著者に関する「解説」が主な内容となり、最後には翻訳や言語に関する文化論とでもよぶべき内容となり、もっと柔らかい内容の本を期待していた当方の許容量のきわめて小さな脳みそはあっという間にショートしてしまった。最近、とみに硬い内容の本が読めなくなっているなあ。
 巻末に著者が手がけた翻訳のリストが掲載されており、それを見るだけで、いままでどれだけお世話になっていたのだと頭が下がる。そして、創元推理文庫に収録されているネヴィル・シュートの『パイド・パイパー』は、角川文庫の『さすらいの旅路』にだいぶ手を入れた改訳版ということを知り、買ったきりどこかに埋もれたこの本も、ちゃんと読まなければと反省させられた。
 ちなみに、46ページに出てくる角川文庫の『絶叫で終わる物語』というのは『悲鳴で終わる物語』の間違いですね。あと、52ページに出てくるネヴィル・シュートの『遠い国』『虹と薔薇』というのは、正しくは『遙かな國』『失われた虹とバラと』ですね。本書は、単行本で出たものを文庫化したのだから、どこかの段階で修正ができればよかったのに。
 なお、著者は昨年の10月に逝去されている。